法人別リリース Wed, 06 Nov 2024 15:00:00 +0900 hourly 1 『第15回 歯科プレスセミナー』を開催 /release/202411069440 Wed, 06 Nov 2024 15:00:00 +0900 日本私立歯科大学協会 ~「このままで大丈夫?!我が国の地域歯科医療」をテーマにした講演とパネルトーク~ 『第15回 歯科プレスセミナー』を開催 ■基調講演:「健康寿命延伸に影響する歯科医療提供体制の偏在問題について」 ■パ... 一般社団法人 日本私立歯科大学協会
~「このままで大丈夫?!我が国の地域歯科医療」をテーマにした講演とパネルトーク~ 『第15回 歯科プレスセミナー』を開催
■基調講演:「健康寿命延伸に影響する歯科医療提供体制の偏在問題について」  
■パネルトーク:「地方の歯科医師が語る、歯科医療の偏在と地域歯科医療の将来」
 
◇日時: 10月29日(火)  13:30~15:45
◇登壇者: ビデオメッセージ  公益社団法人  日本歯科医師会 会長   高橋 英登 氏
                 基調講演  公益社団法人 日本歯科医師会 日本歯科総合研究機構 主任研究員 恒石 美登里 氏
      パネルトーク 【コーディネーター】 
             一般社団法人 日本私立歯科大学協会 専務理事   櫻井 孝
            【パネリスト】     
            岩井歯科医院院長 (函館歯科医師会会長)    岩井 宏之 氏
            医療法人 里山会 澄川歯科医院、匹見歯科診療所院長  澄川 裕之 氏
            渋谷歯科診療所 院長 (長崎県歯科医師会会長)  渋谷 昌史 氏   
            一般社団法人 日本私立歯科大学協会 会長  羽村 章
            一般社団法人 日本私立歯科大学協会 専務理事 櫻井 孝
                       
一般社団法人 日本私立歯科大学協会(所在地:東京都千代田区、会長:羽村 章)は、2024年10月29日(火)に、アルカディア市ヶ谷(東京都千代田区)および、オンラインで『第15回 歯科プレスセミナー』を開催いたしました。
 
一般社団法人日本私立歯科大学協会は、皆様の健康的な生活を考え、サポートすることを目指し、歯科医療に関するテーマを取り上げて「歯科プレスセミナー」を開催してまいりました。
15回目となる今回は、歯科医師数が減少に転じ、地方では歯科医師不足が叫ばれるなど歯科医療の偏在が問題視されていることを背景に、「このままで大丈夫?!我が国の地域歯科医療」をテーマにしたセミナーを開催しました。当協会会長・羽村 章の挨拶と、専務理事・櫻井 孝による歯科医師の現状についての説明の後、公益社団法人 日本歯科医師会 会長 高橋 英登氏のビデオメッセージの上映、基調講演とパネルトークを行い、約70名の報道関係等の皆さまに、我が国の地域歯科医療の現状をお伝えすることができました。
基調講演では、歯科医師数が減少し、地方では無歯科医地区が増加していることが報告され、歯科医療提供の体制維持の重要性が語られました。パネルトークでは、地域に根差した医療に取り組む歯科医師3名に、地方ですでに進行している歯科医師不足の実態や課題点についてお話しいただくとともに、これから更なる普及が期待される訪問歯科診療や、次世代の人材確保に向けた意見交換を行いました。

 
左:基調講演(恒石 美登里氏)
右:パネルトーク(左から櫻井 孝、岩井 宏之 氏、澄川 裕之 氏、渋谷 昌史 氏)
 
 
<開会の挨拶> 

本セミナーの冒頭で当協会会長・羽村 章が登壇し、開会の挨拶を行いました。今回のセミナーのテーマになっている「歯科医師の不足と偏在化」が生じた背景として、2006年当時の厚生労働大臣と文部科学大臣間の歯科医師養成数抑制に関する確認書による「歯科医師国家試験合格者数と歯学部入学定員の抑制措置」の影響があることを説明しました。そして、日本全国、どこに住んでいても、良質な歯科医療を受けることができ、長生きができるような国にするために、「歯科医師国家試験を競争試験から本来の資格試験に戻すことと歯学部入学定員抑制措置の見直し・撤廃を、日本私立歯科大学協会を代表して、強く、政府に要望する」と話しました。そして、国民の皆様が安心して歯科医療が受けられるよう、私立歯科大学は引き続き優秀な歯科医師の養成に努めていく意向を伝えました。
 
<ビデオメッセージ> 

本セミナーの開催にあたり、公益社団法人 日本歯科医師会 会長 高橋 英登氏のビデオメッセージが上映されました。
高橋氏は、冒頭で「日本の歯科界は変革期にある」と語り、2022年の調査で歯科医師数が減少に転じたことや、ご高齢の歯科医師の離職、歯科医療提供の地域偏在と無歯科医地区の増加、歯科医師を目指す若者の減少といった問題点を指摘し、国民の歯科医療が守れなくなることへの危機意識を示しました。このような状況に対応するため、日本歯科医師会は歯科大学との協議の場を設けるなどの取り組みを進めており、若い人たちが夢を持って歯科医師を志していただけるよう、国民から評価される歯科界を作るために努力をしていく方針を伝えました。
 
<基調講演> 
テーマ : 健康寿命延伸に影響する歯科医療提供体制の偏在問題について
講師 : 公益社団法人 日本歯科医師会 日本歯科総合研究機構 主任研究員 恒石 美登里 氏  

 
歯や口腔の健康は、認知症をはじめとするさまざまな全身疾患に影響を与える。健康な歯を残しオーラルフレイルを防ぐことで、健康寿命延伸に貢献が可能
歯科では、8020運動に加えてオーラルフレイル対策に取り組んでいる。なかでも8020運動は年々達成率が上昇しており、2016年には51.2%に達した。
歯の健康はさまざまな疾患に影響することが近年の研究で判明しており、例えば、歯数・義歯使用と認知症発症に関係があり、歯を失い義歯を使用していない場合は認知症発症リスクがわずか4年間で1.9倍になる。また、医療費の面から見ても、歯が残っている人ほど医科医療費が少ない傾向にあることがわかっている。歯科医療は、国民の健康寿命の延伸に貢献するものであり、今後は介護状態になる原因疾患の第一位である認知症や脳血管疾患、骨折・転倒の予防を視野に入れた医療提供が重要になると考える。
 
日本の歯科医師の数は約10万5,000人で、過去40年で初めて減少に転じた。歯科診療所の開設者または法人の代表者の数が減少し、勤務医の歯科医師が増加
2022年の「医師・歯科医師・薬剤師統計」によると、歯科医師数は105,267人で、2020年と比較して2,176名(約2.0%)の減少となった。1982年の集計開始以降、歯科医師数は増加し続けており、減少に転じたのは今回が初である。また歯科診療所数は2016年の6万8,940カ所をピークに減少傾向にある中で、今回の統計では、歯科診療所の開設者または法人の代表者の数が5万6,767名で、2020年と比較して2,100名減少していていることが判明した。なかでも73~75歳の年代での減少が顕著であった。一方、診療所の勤務者数は568名の増加となった。歯科医師を性別で見ると、女性の歯科医師数は増加傾向にある。女性は開設者よりも勤務者が多いことが特徴で、女性の歯科医師が働きやすい環境づくりも今後の課題の一つである。
歯科診療所の減少とともに、次世代への継承も課題になっており、歯科診療所の開設者に将来の継承の予定について尋ねた調査(地域包括ケアシステムにおける「かかりつけ歯科医師が果たす今後の働き方等」)では、約9割が「候補者はいるが不明、予定なし」と回答している。
 
歯科医療提供の地域偏在が進行。歯科診療所数が増える都道府県がある一方、無歯科医地区の数が増加に転じ格差が拡大
このように、歯科医師数と歯科診療所数が減少する中、地域偏在の傾向も強まっている。2000年から2020年までの20年間で、首都圏(東京・神奈川・埼玉・千葉)では人口も歯科診療所数も増加しているが、東北(青森・秋田・福島)や山陰(島根・鳥取)地方では人口も歯科診療所数も減少している。歯科医療機関を容易に利用できない無歯科医地区(※)の数が、2022年には増加して784カ所になっていることも危惧すべき点である。
※無歯科医地区:歯科医療機関のない地域で、当該地区の中心的な場所を起点として、おおむね半径4㎞の区域内に50人以上が居住している地区であって、かつ容易に歯科医療機関を利用することができない地区のこと。
 
「歯や口腔の疾患」の患者数は、「高血圧症」の患者数を上回る。国民の健康を支えるために、歯科医療体制の維持は重要
歯科保健をライフステージごとに見ると乳幼児歯科健診に始まり就学時に定期的な健診が続くが、それ以降は任意の受診となる。国民の健康を守るために、国民皆歯科健診のような切れ目のない歯科健診制度が求められる。また、それに基づくPHR(個人の健康情報)の蓄積も重要である。
高齢者の受療率を見ると、入院などの理由により、高齢者の歯科医療の機会が失われる傾向がみられる。「もっと早くから歯の健診・治療をしておけばよかったと思うか」という質問に75.7%が「そう思う」(「そう思う」「ややそう思う」の合計)と回答しており、定期的な健診や、身近な歯科医療機関のあることが重要であることが推測される。
2020年の「患者調査(症状小分類別総患者数)」によると、「歯や口腔の疾患」の患者数が最も多く1,579万人で、「本態性(原発性)高血圧(症)」の患者数を上回っている。この患者数の実態からわかるように、歯科医療体制を維持することは喫緊の課題である。
歯科医師は“自分の口で食べる”ことをサポートする重要な役割を担っている。食べることは、すべての国民の楽しみであり、それを支える歯科医療提供の体制維持は、ますます重要になると考える。
 
<パネルトーク>
テーマ: 地方の歯科医師が語る、歯科医師の偏在と地域歯科医療の将来
登壇者: 【コーディネーター】 一般社団法人 日本私立歯科大学協会 専務理事                    櫻井 孝
     【パネリスト】    岩井歯科医院院長 (函館歯科医師会会長)                    岩井 宏之 氏
                 医療法人 里山会 澄川歯科医院、匹見歯科診療所院長   澄川 裕之 氏
                                                    渋谷歯科診療所 院長(長崎県歯科医師会会長)          渋谷 昌史 氏 
地域に密着した歯科医療を展開する歯科医師3名が登壇。北海道と島根県、長崎県と地域は異なるが、歯科医師の高齢化とリタイアの問題に直面し、無歯科医地区の増加や歯科医師の減少を危惧
岩井 宏之 氏
 
冒頭で、登壇者は自己紹介を行い、それぞれの地域における歯科診療の状況について語りました。
無歯科医地区が日本で最も多い北海道で開業し、函館歯科医師会会長を務める岩井氏は、同歯科医師会の2割強を70代以上の高齢の歯科医師が占めている実態や、偏在や歯科医師不足により歯科診療所の予約が取りにくくなっていること、北海道全体で無歯科医地区がさらに増える見込みであることを説明しました。島根県で2カ所を拠点に広範なエリアで歯科医療を提供している澄川氏は、島根県の中山間地域に立地する診療所が大幅に減少するという予測データを紹介。その予測がくつがえることなく、減少に向かっているという実情を語りました。 長崎県歯科医師会会長を務める渋谷氏は、離島が多いという地域特性はあるものの、現状は歯科医師数の大きな減少は見られないと説明。人口・歯科医師数の減少は時代の流れであり、今後は地域偏在の解消や無歯科医地区発生の防止など、行政と連携した活動が必要になると話しました。
 
歯科医療は、治療から予防・管理の時代へ。今後さらに増えていく高齢者に向けた医療提供体制が必要
 
澄川 裕之 氏
 
次に近年の歯科医療のニーズの変化について、トークが展開されました。
岩井氏は、口腔衛生への意識の高まりから、むし歯の患者が減るなど疾病構造が変化し、予防・管理の割合が増していることを指摘しました。このほか、特徴的な変化として、患者さんが歯科医師に要望を伝え質の高い治療を望むようになってきたこと、患者さんの多国籍化が進んでいることをあげました。澄川氏も、疾病構造の変化を実感しており、歯を削る外科的な治療から内科的な治療へと変化しており、高齢の患者さんがご自分で食べられるよう、口腔の筋力のサポートをすることも歯科医師の重要な役割であると話しました。渋谷氏も、レセプト数が増加していることから、治療ではなく予防・検診で受診する患者さんが増えていると推測。予防や管理をサポートする歯科衛生士が不足していることも課題として指摘しました。
 
「訪問歯科」の普及に向けて、窓口開設やAI導入などさまざまな施策が進展
 
渋谷 昌史 氏
 
続いて、通院が難しい患者さんのための「訪問歯科診療」について意見交換を行いました。岩井氏は、北海道では通院できない方の相談窓口として開設された「在宅歯科診療連携室」をとりあげ、歯科衛生士が一次的に相談にあたって訪問診療につなげていくシステムについて説明。患者さんを取りこぼさない仕組みとして成功しているが、対応する協力歯科医師など人員が不足しており、体制整備が急務であると話しました。
澄川氏は、通院が難しい方を歯科医療につなげる仕組みとして、試験中の「AIによる簡易診断サポート」を紹介。口腔内の画像データをもとに迅速な判断を行うことで疾病の早期発見・治療に結び付けたり、歯科医師ではなく歯科衛生士が管理するなど、柔軟な対応が可能になると話しました。 渋谷氏は、長崎県歯科医師会が運営する、インターネットや電話で訪問診療の申し込みを受け付ける「長崎デンタルネット」を紹介しました。さらに、同歯科医師会では巡回歯科診療車も運営しており、今後は利用対象者の範囲をさらに拡大したいと話しました。
 
 
歯科医師の偏在は、政治や行政が取り組む課題。歯科衛生士など多職種も含めて次世代の人材確保が急務
これまでの意見交換をもとに、今後求められる取り組みや提案について伺いました。
澄川氏は歯科医師の偏在は、政治や行政が取り組む課題で、そのための基礎資料や知見において大学の協力が必要であると話しました。渋谷氏は、地域にある歯科大学において若い世代の研究者のポストが少なく県外に流出してしまう現状を指摘。今後は歯科診療所だけでなく病院や施設など歯科医師の働く場所の選択肢が増えると推測し、そのための人材育成の仕組みを国が主導して整備してほしいと話しました。
最後に地域での歯科診療を継続するにあたり、次世代の人材確保についてお話を伺いました。
岩井氏は、歯科医師は、医師や多職種と連携して医療提供を行っており、歯科医師だけでなく、歯科衛生士、歯科技工士も含めて人材を確保する必要性があることを訴えました。
澄川氏は、自分のような上の世代の歯科医師が、次世代から見て憧れる存在になるよう努力することで、次世代との連携を進めていきたいと話しました。渋谷氏は、歯科医師は子供から大人まで、あらゆる世代に接し、喜ばれるやりがいのある仕事であることを若い世代に伝えていきたいと話しました。そして、歯科医療に限らず地方に関心を持ってもらえるように、若い世代に向けて各地域の魅力を発信していくことを提案しました。
 
【開催概要】
日 時 : 10月29日(火)  13:30~15:45
主 催 : 一般社団法人 日本私立歯科大学協会
内 容 : <ビデオメッセージ>
    公益社団法人 日本歯科医師会 会長 高橋 英登氏
    <基調講演>
    テーマ:健康寿命延伸に影響する歯科医療提供体制の偏在問題について
    講師:公益社団法人 日本歯科医師会 日本歯科総合研究機構 主任研究員 恒石 美登里 氏 
 
    <パネルトーク> 
    【コーディネーター】 一般社団法人 日本私立歯科大学協会 専務理事 櫻井 孝
    【パネリスト】    岩井歯科医院院長 (函館歯科医師会会長)  岩井 宏之 氏
              医療法人 里山会 澄川歯科医院、匹見歯科診療所院長 澄川 裕之 氏
              渋谷歯科診療所 院長 (長崎県歯科医師会会長) 渋谷 昌史 氏
 
【ご参考】
一般社団法人 日本私立歯科大学協会について
日本私立歯科大学協会は、昭和51年に社団法人として設立しました。歯科界に対する時代の要請に応えられる有用な歯科医師を養成していくため、全国17校の私立歯科大学・歯学部が全て集まりさまざまな活動を展開しています。また、加盟各校では、私立ならではの自主性と自由さを生かして、それぞれに特色を発揮しながら歯科医学教育を推進しています。
日本の歯科医学教育は、明治以来、私立学校から始まったもので、現在も歯科医師の約75%が私立大学の出身者であるなど、加盟校は歯科界に大きな役割を果たしてきました。本協会ではこのような経緯を踏まえながら、今後とも歯科医学教育、研究および歯科医療について積極的に情報提供を進めてまいります。
 
<加盟校>
日本全国の全ての私立歯科大学・歯学部(15大学17歯学部)が加盟しています。
○北海道医療大学歯学部     ○岩手医科大学歯学部     ○奥羽大学歯学部 
○明海大学歯学部        ○東京歯科大学        ○昭和大学歯学部     
○日本大学歯学部        ○日本大学松戸歯学部     ○日本歯科大学生命歯学部 
○日本歯科大学新潟生命歯学部  ○神奈川歯科大学       ○鶴見大学歯学部
○松本歯科大学         ○朝日大学歯学部       ○愛知学院大学歯学部 
○大阪歯科大学         ○福岡歯科大学


【所在地等】 〒102-0074 東京都千代田区九段北4-2-9 私学会館別館第二ビル2階
       TEL.03-3265-9068 FAX.03-3265-9069
       E-mail:jimkyoku@shikadaikyo.or.jp
       URL:https://www.shikadaikyo.or.jp
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『第14回 歯科プレスセミナー』を開催 /release/202311082498 Wed, 08 Nov 2023 17:00:00 +0900 日本私立歯科大学協会 ~「女性歯科医師のキャリア構築と現状」をテーマにした講演とパネルトーク~ 『第14回 歯科プレスセミナー』を開催   ■基調講演:「女性歯科医師のキャリア構築と現状~来たれリケジョ!歯学部へ!~」 ... 一般社団法人 日本私立歯科大学協会
~「女性歯科医師のキャリア構築と現状」をテーマにした講演とパネルトーク~ 『第14回 歯科プレスセミナー』を開催
 
■基調講演:「女性歯科医師のキャリア構築と現状~来たれリケジョ!歯学部へ!~」  
■パネルトーク:「現役女性歯科医師からみる 女性歯科医師のキャリア構築と現状」
 
 
 一般社団法人 日本私立歯科大学協会(所在地:東京都千代田区、会長:羽村 章)は、2023年10月31日(火) に、アルカディア市ヶ谷(東京都千代田区)および、オンラインで『第14回 歯科プレスセミナー』を開催いたしました。
 
 口腔ケアは全身の健康の維持・増進に深く関わることが認知されるようになり、歯科医師、そして歯科医学・歯科医療の役割がより一層注目されるなか、一般社団法人日本私立歯科大学協会は、皆様の健康的な生活を考え、サポートすることを目指し、歯科医療に関するテーマを取り上げて「歯科プレスセミナー」を開催してまいりました。
 
 14回目となる今回は、当協会会長・羽村 章の挨拶と、専務理事・櫻井 孝による歯科医師の現状についての説明の後、基調講演とパネルトークを行い、約70名の報道関係等の皆さまに、女性歯科医師のキャリア構築と現状をお伝えすることができました。
 基調講演では、近年女性の歯科医師が増える傾向にあることが報告され、歯科医師は女性の特性が活かさせる職業であることや、キャリアデザインを柔軟に行うための課題などについてお伝えいたしました。パネルトークでは、現役で活躍する女性歯科医師3名に自身のキャリアパスとライフステージについてお話しいただき、働き方の実態やキャリア構築の方法、女性歯科医師がさらに働きやすくなるための環境整備などについて意見を交換しました。
 
 
左:基調講演(水田 祥代氏)
右:パネルトーク(左から水田 祥代氏、大久保 真衣氏、前畑 香氏、佐藤 彩乃氏)
 
 
<基調講演> 
テーマ : 女性歯科医師のキャリア構築と現状~来たれリケジョ!歯学部へ!~
講師  : 学校法人福岡学園 理事長  水田 祥代 氏
 
 
外科医・小児科医としてキャリアを積み、病院長、小児学会理事長などを経験。
現在は学校法人福岡学園理事長として医療従事者の育成に努める
幼少時の入院経験をきっかけに医師を目指し、1966年に九州大学医学部を卒業した。米空軍立川病院でのインターンを経て、九州大学第二外科教室に入局。英国リバプール大学附属アルダーヘイ小児病院に2年間留学し、帰国後に九州大学大学院(第二外科)で一般外科を担当した後、小児外科講師・医局長に就任。福岡市立こども病院小児外科部長や九州大学小児外科教授、九州大学病院長を務めた。日本小児外科学会第13代理事長として後進の育成に努め、2015年に現職の学校法人福岡学園理事長に就任した。
 
歯科医師に占める女性の割合は25%。過去40年で約2倍に増加しているものの、“体力的にハードな仕事”という誤解やロールモデルの不在などを理由に低率にとどまる
2020年の歯科医師数に占める女性の割合は25%、医師数に占める女性の割合は22.8%でこの40年で約2倍に増加した。歯科医師で女性の比率が低い理由として、①医師は体力的にハードなイメージがあり、歯科医師もそうではないかという誤解がある、②出産・育児との両立が難しそうである、③歯科医師は男性、歯科衛生士は女性というイメージがある、④ロールモデルが少ないという4点があげられる。
しかし女性が男性に劣ることはなく、実際に世界では、様々な分野で女性がリーダーシップを発揮している。また研究の分野では女性がチームに加わると成果が上がるという調査結果もある。
 
歯科医師として研鑽が必要な20~30代に出産・育児期間が重なることや、ロールモデルが乏しくキャリア構築の見本が少ないことが女性歯科医師育成の課題
歯科医師になるには、6年間の大学教育を経て歯科医師国家試験に合格・資格取得した後、最低1年間の初期臨床研修を行うことが義務となっている。その後数年間、研鑽を積み専門性を身に付けて30代中頃に一人前になるのが一般的で、この修行期間をいかに充実したものにするかが重要である。一方、その時期は出産・育児の期間と重なるため、仕事との両立に苦慮する女性歯科医師が多いようである。
そこで課題になるのが、理系職種の女性にとってロールモデルが乏しいことである。科学技術系専門職の研究者全体に占める女性の割合は17.5%とOECD中最下位で、医学・歯学分野で見ても女性が占める割合は28.2%と低いため、お手本となるケースが少なくキャリア構築の方法が見えにくくなっている。
 
子どもがいる女性歯科医師は約3割(31.7%)で、復職までの期間の平均値は1.4年(±1.94)。
体力的に働きやすく、出産・育児との両立も可能で、女性ならではのメリットを発揮できる歯科医師は“女性にとって働きやすい職業” 。スキルアップ支援や職場での保育所開設など、支援体制は強化される傾向にある
「子どもがいる」女性歯科医師は約3割(31.7%)で、その人たちが歯科医業を離れた期間の平均値は1.4年(±1.94) であった。
女性歯科医師が出産・育児後にも復職・再就職できるように、日本歯科医師会は、最新の知識・技術の習得を支援する生涯研修事業の提供や就業支援サイトの開設を行っている。このほか、各学会や厚生労働省などによる支援事業も提供され、女性医師のキャリア継続のための支援体制が進みつつある。
 
 
歯科大学・歯学部の学生の半数近くが女性。歯科医師は、ライフステージに合わせた働き方やキャリア構築が可能なため、女性にとって働きやすい職業として注目される
歯科大学・歯学部では学生の半数近くを女性が占めている。日本には歯科大学・歯学部が29校(私立大学17校、国公立大学12校)あるが、そのうちの8校ではすでに女子学生の割合が5割を超えている(令和5年度 速報値)。
歯科医師は、女性ならではのメリットを発揮できる職業で、男性医師による治療に抵抗のある患者さんや歯の審美の相談、妊娠中の歯のケアをするマタニティ歯科といった、患者の要望に応えることができる。
高度な科学技術系専門職の中でも、歯科医師は、女性が働きやすく活躍できる環境が比較的整った職業であるといえる。力を必要とする場面や体力的な厳しさはなく、男女間の格差はない仕事である。予約診療、計画診療が一般的なので夜勤や当直勤務もほとんどない。男性に比べて手が小さく、狭い口の中で細かな作業ができるといったメリットがあり、マタニティ歯科など女性だからこそ理解できる分野もあり、女性ならではのメリットや適性が発揮できる職業といえる。国家資格と専門技術を持つため、休職しても復帰や再就職が容易で、働き方もフルタイムだけでなく時短、パート・アルバイトなど柔軟に働くことができる。
 
来たれリケジョ! 生涯を通して取り組むことができる歯科医師になり、キャリアアップをしてほしい
歯科医師の就職率は100%で、安定して高収入が得られ、国民の健康とQOL向上に直結したやりがいの高い医療職である。「仕事と出産・育児との両立」は課題点であるが、出産や育児を経験しながら、勤務場所や形態を変えてキャリアを積んだ例はいくつもあり、「両立の束縛」から自由になっていただきたい。休んだ分のキャリアはまた追いかければよいと考え、生涯を通してできる仕事として取り組んでほしい。
これから女性歯科医師を目指すリケジョの皆さんには、貪欲にキャリアアップを図り、意思決定の場に参加し、能力をアップして豊かな人生を送ってほしいと願っている。また、私の願いは、10代から100歳代までそれぞれの時代を謳歌することで、今は80代としてFantasticな時代を過ごしたいと思っている。   
 
<パネルトーク>
テーマ : 現役女性歯科医師からみる 女性歯科医師のキャリア構築と現状
登壇者 :
【コーディネーター】 学校法人福岡学園 理事長 水田 祥代 氏
【パネリスト】
 東京歯科大学 准教授  大久保 真衣 氏
 ナカエ歯科クリニック 院長 前畑 香 氏
 フリーランス歯科医師 佐藤 彩乃 氏
 
【パネルトーク 第1部】女性歯科医師の現状
大学・開業医・フリーランスとして働く現役女性歯科医師が、多様な職場、働き方を説明
パネルトークの第1部では、「女性歯科医師の現状」をテーマにトークを展開しました。
冒頭で、登壇者はそれぞれの経歴とキャリア形成の経緯、仕事内容について語りました。東京歯科大学で摂食嚥下リハビリテーションを専門に研究する大久保氏は、対象となる患者さんの幅が広いため、福祉、教育、などさまざまな職種の人たちと関わる仕事であることを説明しました。
前畑氏は、大学卒業から歯科クリニックの院長になるまでの経緯を話し、家業である開業医を継承して義歯の専門性を磨くうちに、講演や書籍執筆などの仕事の幅が広がったことを説明しました。佐藤氏は、お子さんとの時間を作りたいという気持ちからフリーランスで働き始めた経緯を話し、専門とする矯正治療は計画的な治療が可能なため、フリーランスでの働き方が可能であることを説明。女性歯科医師の多様なキャリアパスや働き方についてトークが展開されました。
 
【パネルトーク 第2部】キャリア構築における女性ならではの難しさ
出産・育児中も周囲との連携により自分らしい働き方を実現
第2部では、「キャリア構築における女性ならではの難しさ」をテーマにトークを展開しました。
コーディネーターの水田氏が、「働く中で心細く不安に感じること」について尋ねると、大久保氏は「大学には女性の先輩が多く職種を問わずロールモデルもたくさんあり参考になったので不安はない」、前畑氏は「夫が同業の研究者であるため理解がある。同じ女性開業医の横のつながりもあるので不安はない」、佐藤氏は「自分一人では難しい案件では他のドクターに助けを求めることができる」と答え、働く中で心細くなる場面はなく、周囲との連携がとれていることについて説明しました。
 
出産・育児を経ても、周囲のサポートと柔軟な働き方によりキャリアを継続
休みを取ることで「追いていかれる」時期があっても「後から追いつけばよい」と考えてほしい
「キャリア構築」について尋ねると、大久保氏は、不妊治療を受けるために一度、大学を離れたときのエピソードを話しました。大学に勤務時間の調整が可能な体制をとってもらうことで復職でき、「手に職があることのメリットを実感した」と話ました。前畑氏は、体調不良になりやすい更年期の働き方について話し、「同年代の女性歯科医師に悩みを相談し、家族と話をすることで解決を図っている」と説明しました。佐藤氏は、産休・育休中に「追いていかれる」という不安感が募ったという経験談を披露。また、当時勤務していた大学病院では育児期の早退や遅刻に理解があり、仕事と育児の両立は難しくなかったと振り返りました。フリーランスとして働く今は、子連れでクリニックに行くこともあり、周囲の理解がある環境で働いていることを説明しました。水田氏は産休・育休期間について、「追いていかれると思うかもしれないが、後から追いつけばいい」というマインドを持ってほしいと話しました。
 
 
男女の別なく働ける環境であることの周知や、開業支援、女性が得意とする歯科分野のアピールが課題
女性医師が増え活躍するための課題については、大久保氏は、「歯科だけでなく医療全体で男女の別なく働く環境になりつつあるので、その実態を伝えるなどアピールを強化してほしい」と話しました。前畑氏は女性歯科医師の働き方として開業があるが、「開業はハードルが高いと思われがち」と指摘。実際はそうでもないので「経営面について指導や説明をする機会があるとよい」と提案しました。佐藤氏は「マタニティ歯科や小児歯科など女性が活躍しやすい分野があることを知ってもらいたい」と答えました。
 
来たれリケジョ!歯科医師は「チャンスがある」「資格を持つ強みがある」「出産後の復職ができる」「人に喜ばれるやりがいのある」仕事で、女性が生涯を通じて働き成長できる職業
最後に、登壇者の皆さんから、理系への進学を考える女子中高校生に向けたメッセージをいただきました。
大久保氏は「私は大学で研究をしながら、子どもを連れて留学も経験しました。何事も無理ではないかとブレーキをかけずチャンスがあればそれを活かしてほしい。学内で多くの学生さんと触れ合いますが、歯科を学ぶ中でどんどん成長して頼もしくなっていきます。理系の女子中高校生の皆さん、ぜひ歯学部へ来てください」、前畑氏は「女性のあらゆるライフステージにおいて資格を持っていることは強みになります。そして、痛みを持つ人の助けになる歯科医師は、人に喜んでもらえる素晴らしい職業です。理系の女子中高校生の皆さん、どうぞ歯学部へ来てください」、佐藤氏は「歯科医師の仕事は、私がそうであったように子供を産んでも復職できる仕事です。勉強することも多いですが、それによってありがとうと言われて感謝される仕事で、やりがいがあります」と話しました。
水田氏は、3人の女性医師がそれぞれ「仕事と人生を楽しんでいる」と感想を述べました。そして、「私も小児外科医の仕事がとにかく楽しかった。自分が選んだ道が間違っていないと思える」と振り返り、「皆さんには頑張ってほしい」とエールを贈りました。
 
 
【開催概要】
日 時 : 2023年10月31日(火)  14:00~15:45
主 催 : 一般社団法人 日本私立歯科大学協会
内 容 :
<基調講演>
テーマ:「女性歯科医師のキャリア構築と現状~来たれリケジョ!歯学部へ!~」
講師:学校法人福岡学園 理事長 水田 祥代 氏
<パネルトーク>
【コーディネーター】学校法人福岡学園 理事長 水田 祥代 氏
【パネリスト】 東京歯科大学 准教授 大久保 真衣 氏
ナカエ歯科クリニック 院長  前畑 香 氏
フリーランス歯科医師 佐藤 彩乃 氏
 
【ご参考】
一般社団法人 日本私立歯科大学協会について
日本私立歯科大学協会は、昭和51年に社団法人として設立しました。歯科界に対する時代の要請に応えられる有用な歯科医師を養成していくため、全国17校の私立歯科大学・歯学部が全て集まりさまざまな活動を展開しています。また、加盟各校では、私立ならではの自主性と自由さを生かして、それぞれに特色を発揮しながら歯科医学教育を推進しています。
 日本の歯科医学教育は、明治以来、私立学校から始まったもので、現在も歯科医師の約75%が私立大学の出身者であるなど、加盟校は歯科界に大きな役割を果たしてきました。本協会ではこのような経緯を踏まえながら、今後とも歯科医学教育、研究および歯科医療について積極的に情報提供を進めていきます。
 
<加盟校>
日本全国の全ての私立歯科大学・歯学部(15大学17歯学部)が加盟しています。
○北海道医療大学歯学部    ○岩手医科大学歯学部   ○奥羽大学歯学部 
○明海大学歯学部       ○東京歯科大学      ○昭和大学歯学部     
○日本大学歯学部       ○日本大学松戸歯学部   ○日本歯科大学生命歯学部 
○日本歯科大学新潟生命歯学部 ○神奈川歯科大学     ○鶴見大学歯学部
○松本歯科大学        ○朝日大学歯学部     ○愛知学院大学歯学部 
○大阪歯科大学        ○福岡歯科大学
 
【所在地等】 〒102-0074 東京都千代田区九段北4-2-9 私学会館別館第二ビル2階
TEL.03-3265-9068 FAX.03-3265-9069
E-mail:jimkyoku@shikadaikyo.or.jp
URL:https://www.shikadaikyo.or.jp
 
【歯科医師の現状について:日本私立歯科大学協会 櫻井 孝 専務理事 説明概要】
https://www.shikadaikyo.or.jp/wp-content/uploads/presseminer_14_03.pdf


 
         
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『第13回 歯科プレスセミナー』をオンラインで開催 /release/202210208459 Thu, 20 Oct 2022 16:15:00 +0900 日本私立歯科大学協会 一般社団法人 日本私立歯科大学協会(所在地:東京都千代田区、会長:三浦 廣行)は、2022年10月17日(月)に、アルカディア市ヶ谷(東京都千代田区)および、オンラインで『第13回 歯科プレスセミナ... 一般社団法人 日本私立歯科大学協会
一般社団法人 日本私立歯科大学協会(所在地:東京都千代田区、会長:三浦 廣行)は、2022年10月17日(月)に、アルカディア市ヶ谷(東京都千代田区)および、オンラインで『第13回 歯科プレスセミナー』を開催いたしました。
 
これは、歯科医療の見地から、皆様の健康的な生活を考え、サポートすることを目指し、当協会が2010年から開催しているプレスセミナーです。毎回、口腔衛生に関するテーマを取り上げて、これからの歯科が担う役割の大きさや魅力について情報をお伝えしています。
 
講演①:意外と知らない「歯科医師」という職業 ~現状と魅力、超高齢社会で果たす大きな役割~ 講演②:健康寿命を延伸する口腔機能の役割
 
◇日時:10月17日(月)  14:00~15:30
◇登壇者:
講演① 日本私立歯科大学協会 常務理事・神奈川歯科大学 学長 櫻井 孝氏         
講演② 岩手医科大学歯学部 教授  小林 琢也氏
一般社団法人 日本私立歯科大学協会 会長  三浦 廣行
一般社団法人 日本私立歯科大学協会 専務理事  羽村 章
 
13回目となる今回は、「意外と知らない「歯科医師」という職業 ~現状と魅力、超高齢社会で果たす大きな役割~」と、「健康寿命を延伸する口腔機能の役割」をテーマに、最前線の研究者が説明を行いました。
当協会会長・三浦 廣行(岩手医科大学副学長・歯学部長)の挨拶と、専務理事・羽村 章(日本歯科大学歯学部教授)による当協会についての説明の後、歯科医師が超高齢社会で果たす役割と、寿命延伸における口腔機能の役割について、約90名の報道関係等の皆さまにお伝えしました。
「第13回 歯科プレスセミナー」講演風景(左:櫻井 孝 教授 右:小林 琢也 教授)
 
<講演内容>
■講演1
テーマ:「意外と知らない「歯科医師」という職業~現状と魅力、超高齢社会で果たす大きな役割~」
講師 :日本私立歯科大学協会 常務理事・神奈川歯科大学 学長 櫻井 孝 氏
歯科医院施設数は約6万8,000施設、歯科医師数は約10万7,000人。「コンビニより多い」と過多が報じられたことがあるが、歯科医師数は世界的に見て中位に位置
歯科医師不足が叫ばれた昭和40年代から50年代にかけて、歯科医師は全体的に収入が高くやりがいもある職業といわれたが、現在は職業の人気ランキングでは順位を大きく落としている。
一方、私立歯科大学・歯学部の入試志願者数推移を見ると、歯科医師数の抑制政策や、歯科に対するネガティブな報道などに反応して過去に志願者数が低下した年があるものの、その後は必ず上昇に転じている。私立歯科大学・歯学部の卒業生に対する歯科医師の求人倍率は8.72倍、人数ベースで見た求人倍率では12.75倍にもなり、一般の大卒の1.5倍と比べて高い求人倍率であることがわかる。
歯科医師の数は現在約10万7,000人、人口10万人当たりの歯科医師数は85.2人である。人口当たりの歯科医師数では、日本の歯科医師数はOECD加盟38国の中で19位に位置し、歯科医師数が過剰とはいえない数字だ。
2010年頃、「歯科医院はコンビニより多い」、そのため「倒産する歯科医院もある」などネガティブな情報が流布されたことがあった。2022年現在の歯科診療所数は約68,000(6万7,717)施設、コンビニエンスストア数は約5万7,000店あるが、コンビニエンスストアより施設数の多い業種は歯科医院のほかにもさまざまあり、比較することに意味があるとは思えない。また、帝国データバンクのデータでは、2021年の歯科医院の倒産は10件のみであり、大都市圏で生じている。歯科医院数は2017年をピークに5年間で1,230施設ほど減少しており、その主な理由は歯科医師の高齢化などによる廃業であると考えられている。
 
歯科医師数の減少傾向と高齢化、地域への適正配置が進まないことが課題
歯科医師の約97%は医療施設で働き、そのうちの約9割(88.2%)は歯科診療所で、約1割(11.8%)が病院勤務である。歯科医師の供給抑制の政策が影響したことから、平均年齢は54.3歳で年々上昇し、50歳以上が全体の半数以上を占める。ボリュームゾーンである50代以上の歯科医師のリタイア時期を想定すると、2025年前後から歯科医師数が減少に転じると予測されている。また、開業歯科医の約9割が、リタイア後の継承が決まらない現状にある。
歯科診療提供の課題点のひとつは、歯科医師が全国に均等に配置されていないことで、人口10万人当たりの歯科医師数を見ると、東京都の122.8人に対して滋賀県は59.3人と半分以下である。また、「歯科医療過疎地区」(簡単には歯科医療を受けられない地区)は全国に1,200以上もある。
 
超高齢社会に対応し、口腔ケアにより食と健康を支える「歯科訪問診療」のニーズが拡大。
体制強化のためにも、歯科医師の拡充が必須
高齢者人口の増加や高齢者の歯科需要の高まりなどを受けて、65歳以上の患者数は2045年ごろまで増加していくことが予測されている。高齢者の診療ニーズは歯周病予防や口腔管理へと大きく変化し、歯科医師らが出向いて診療する「歯科訪問診療」の必要性が高まっている。
現在、これに取り組むのは歯科診療所の約15%、全国平均で高齢者10万人あたり約40施設の割合である。治療のほかに口腔ケアや摂食・嚥下リハビリテーションなどで高齢者の食と健康を支える役割を担うが、これに対応できるだけの歯科医師の数が足りない。実際に、要介護高齢者290人への調査では6割以上の人が歯科治療を必要としていたが、治療を受けた人はわずか2.4%であったことが報告されている。
 
歯科医師は、男女の別なく柔軟に働けてQOL向上に直結する、やりがいのある職業。近年は、災害時支援や、睡眠の質やスポーツのパフォーマンス向上、最先端の再生医療など、活動領域も拡大。
厚生労働省の統計によると、歯科医師の年収は平均で約787万円である。歯科医師を対象にした別の調査では、年収2,000万円以上と答えた人が最も多く(29.6%)、1,000万円以上と答えた人の割合は7割に上る。繁盛している歯科医師では数千万円から数億円というケースもあり、他の専門職と比べても高収入である。
時代の変化とともに歯科医師が活躍する領域が拡大しており、「災害歯科」では、大規模災害の被災地などにおいて口腔ケアで誤嚥性肺炎(災害関連死)を防ぐ活動を継続して実施している。「摂食・嚥下リハビリテーション」は、食べる機能が衰えた人にトレーニングを行いQOL向上に貢献するものである。「睡眠歯科」は、マウスピースなどを使って睡眠時無呼吸症候群やいびきといった睡眠呼吸障害を治療し、日本人の国民病ともいえる不眠の解決に貢献している。「インプラント」は、人工歯根を埋め込んで義歯を装着するもので、最も天然の歯に近い修復法として普及が進む施術である。「顎関節症」では、顎の矯正やトレーニング、マウスピースなどによる治療のほか、ストレス対策などの生活指導を提供している。「再生医療」の分野では、失った歯や歯周組織の再生や、歯髄細胞を幹細胞としてあらゆる組織の再生に役立てる試みが進行中だ。
また、学校歯科医や産業歯科医など、地域や行政も歯科医師の活躍の場である。このほか、医科との連携により、「口腔がん」の治療や、「ペインクリニック」での歯科麻酔、歯・歯周組織を再生する「再生医療」、口の健康を通して選手をサポートする「スポーツ歯科」など、さまざまな医療のキーパーソンとしても活躍している。
女性が活躍しやすい職業であることも歯科医師の特長である。体力面で男女間の格差がなく、男性に比べて手が小さいことは口腔内の治療に適している。また、予約診療・計画診療が一般的で、柔軟な働き方が可能なこともあり、現在、歯科医師の4人に1人は女性である。
歯科医師の就職率は100%で、私立歯科大学・歯学部への求人倍率は8.72倍である。定年もなく、70歳以上の現役歯科医師は1万人以上いる。子供から高齢者まで幅広い人たちの健康とQOL向上に直結しており、治療成果が見えやすく、やりがいの高い仕事であるといえる。
 
■講演2 テーマ:「健康寿命を延伸する口腔機能の役割」
講師:岩手医科大学歯学部 教授 小林 琢也 氏
健康寿命延伸に影響を与える「口腔機能の維持」。十分な栄養摂取が疾病予防につながる
日本人の平均寿命と健康寿命は延伸したが、不健康な期間は男性で約9年、女性で約12年で、過去約10年間で大きな変化は見られない。
高齢者の健康を侵す疾患として、非感染性疾患(がん、糖尿病や循環器疾患、呼吸器疾患など)がある。これらの予防には、運動や健康な食事をとるなど生活習慣の改善が有効である。健康な食事をとることに関しては、歯科医療がもっとも貢献できる。う蝕や歯周病を予防して歯を多く残存させて口腔機能を維持し、必要な栄養摂取により疾病予防につなげることが可能である。
 
歯の喪失が栄養摂取の低下・偏りを引き起こし、全身疾患に影響を与える
歯の状態と食事・栄養摂取の関連を調査すると、残存歯が少ない人はビタミンA・C・E、カロチン、食物繊維などの摂取量が低下し、エネルギーや炭水化物が増加することがわかった。これは、食べやすいお米やパン、芋の摂取量増加を示している。米国や英国の調査でも同様に食物繊維やビタミン、ミネラルの摂取量の低下が報告されている。これらの結果から、歯の喪失が咀嚼能力の低下、栄養の低下や偏りにつながり、全身疾患に影響を及ぼしていると推測される。
 
歯の喪失と疾患罹患との関係
日本で行われた調査では、臼歯部の咬合を失うと動脈硬化の発症リスクのオッズが1.9になると報告されており、魚介類やビタミンB6、n-3PUFAの摂取不足が影響を与えていると思われる。動脈硬化との関連が強い疾患として肥満や高血圧があるが、これらと比較して咬合を失うケースの方が、関連度が高いことがわかった。
米国で行われた調査でも、歯の数が減少すると死亡リスクが13%高くなるほか、上部消化器癌(35%)、心疾患(28%)、脳卒中(12%)のリスクも増加する。英国での調査でも、喪失の本数(4本以下と5本以上の比較)により、循環器系疾患による死亡率が35%高くなることが報告された。
以上の結果から、歯周病だけでなく、歯の喪失も全身疾患を発症する大きなリスクファクターであるといえる。歯を喪失すると、咀嚼能力が低下し食べる食品の偏りが生じ、栄養バランスを崩し、それが長期化することで全身機能に障害を与え疾患の発症につながると思われる。
 
咀嚼行為や歯の残存数は、脳の活性や容積量に影響を与える。
歯を失っても、口に合う義歯の使用により、脳の活動性回復は可能。
咀嚼と脳の関連についての実験結果では、顎を動かすだけでは脳の活動は活性せず、顎を動かし、しっかり咬んで咀嚼する行為が脳を活性させていることが明らかになった。咀嚼行為により特に活動するのは、咀嚼に関わる脳部位に加えて、認知機能、学習機能、記憶機能、情動に関わる脳部(大脳基底核、視床、前頭葉、扁桃体)で活動が上昇することがわかった。
次に、脳の構造への影響を調べると、「80歳以上で無歯顎」の場合、記憶学習に関与する海馬、認知機能や情動に関与する大脳基底核の一部である尾状核、紡錘状回で脳の容積低下が見受けられた(80歳で20本以上歯がある人との比較)。
また、「歯がある人」「歯がない人」「歯がないところに義歯を装着した人」で、咀嚼による高齢者の脳の活動の変化を比較すると、「歯がある人」は最も脳が活性するが、「歯がない人」では大脳基底核、視床、前頭葉、扁桃体脳活動の低下を認めた。「歯がない人」でも義歯を装着して使用することにより大脳基底核、視床、前頭葉、扁桃体脳活動が回復することがわかった。また、合わない義歯を使用しているより、合う義歯にして使用することで前頭葉と海馬で活性が上昇し、記憶や集中力の機能向上が認められた。
 
歯を失うと認知症リスクが高まり、早期高齢者ほどその傾向が顕著になる。
さらに、歯の喪失が認知症に影響を及ぼしているのか、ハーバード大学と岩手医科大学で共同研究を行ったところ、自身の歯の「接触がある」「接触がない」グループの比較で、後者は、早期高齢者で認知症になる確率が約1.9倍、後期高齢者で約1.3倍上昇した。「すべて自身の歯がある人」「無歯顎の人」の比較でも、早期高齢者で認知症になる確率が約2.4倍、後期高齢者で約1.4倍となった。
この結果で興味深いのは、早期高齢者での罹患リスクが高まっている点である。認知症のリスク要因が少ない早期高齢者でオッズ比が高く出たことは、咬合接触状態が認知症に影響していることを示している。
 
QOL低下に影響を与える口腔機能。発症前から歯科医師の診察を受けることで、全身疾患や認知症の予防・茂篤化予防につなげることが可能
慢性的な炎症を持つ歯周病は全身疾患を重篤化させ、口腔機能の低下は栄養摂取状態を悪化させて筋力低下を招いて全身疾患の発症に影響を与える。また、歯の喪失は脳の活動に関わり認知症リスクを高めることがわかっている。つまり、歯科疾患は、高齢者の全身と脳の疾患に関わり、QOL低下につながる疾患であると認識していただきたい。
歯科は、従来の歯科治療に加えて、口腔機能や摂食嚥下機能の低下予防、栄養な栄養を摂れるような指導などを通じ、全身疾患発症予防に貢献することができる医療機関である。医科と異なり疾患にかかる前から患者さんと関わりを持てるため、認知機能低下などを早期に発見し、医科と連携をとり患者の疾病重篤化を防ぐ窓口としても機能する。このような「形態・機能・栄養の管理」を歯科が担うことで疾病と重篤化を予防し、健康寿命の延伸に大きく貢献すると考えている。
 
【開催概要】
日  時 : 2022年10月17日(月) 14:00~15:30
主  催 : 一般社団法人 日本私立歯科大学協会
内  容 :
<講演1>
 テーマ:「意外と知らない「歯科医師」という職業
       ~現状と魅力、超高齢社会で果たす大きな役割~」
 講師 :日本私立歯科大学協会 常務理事・神奈川歯科大学 学長 櫻井 孝 氏
 
<講演2> 
 テーマ:「健康寿命を延伸する口腔機能の役割」
 講師 :岩手医科大学歯学部 教授 小林 琢也 氏
 
 
【ご参考】 一般社団法人 日本私立歯科大学協会について
 
 日本私立歯科大学協会は、昭和51年に社団法人として設立しました。歯科界に対する時代の要請に応えられる有用な歯科医師を養成していくため、全国17校の私立歯科大学・歯学部が全て集まりさまざまな活動を展開しています。また、加盟各校では、私立ならではの自主性と自由さを生かして、それぞれに特色を発揮しながら歯科医学教育を推進しています。
 日本の歯科医学教育は、明治以来、私立学校から始まったもので、現在も歯科医師の約75%が私立大学の出身者であるなど、加盟校は歯科界に大きな役割を果たしてきました。本協会ではこのような経緯を踏まえながら、今後とも歯科医学教育、研究および歯科医療について積極的に情報提供を進めていきます。
 
<加盟校>
日本全国の全ての私立歯科大学・歯学部(15大学17歯学部)が加盟しています。
○北海道医療大学歯学部            ○岩手医科大学歯学部            ○奥羽大学歯学部 
○明海大学歯学部          ○東京歯科大学               ○昭和大学歯学部     
○日本大学歯学部          ○日本大学松戸歯学部            ○日本歯科大学生命歯学部 
○日本歯科大学新潟生命歯学部         ○神奈川歯科大学              ○鶴見大学歯学部
○松本歯科大学           ○朝日大学歯学部              ○愛知学院大学歯学部 
○大阪歯科大学           ○福岡歯科大学
 
 
【所在地等】
〒102-0074 東京都千代田区九段北4-2-9 私学会館別館第二ビル2階
TEL.03-3265-9068 FAX.03-3265-9069
E-mail:jimkyoku@shikadaikyo.or.jp
URL:https://www.shikadaikyo.or.jp
 
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『第12回 歯科プレスセミナー』をオンラインで開催 /release/202110272360 Wed, 27 Oct 2021 15:00:00 +0900 日本私立歯科大学協会  一般社団法人 日本私立歯科大学協会(所在地:東京都千代田区、会長:三浦 廣行)は、2021年10月22日(金)に、オンラインで『第12回 歯科プレスセミナー』を開催いたしました。    これは、歯... 一般社団法人 日本私立歯科大学協会
 一般社団法人 日本私立歯科大学協会(所在地:東京都千代田区、会長:三浦 廣行)は、2021年10月22日(金)に、オンラインで『第12回 歯科プレスセミナー』を開催いたしました。
 
 これは、歯科医療の見地から、皆様の健康的な生活を考え、サポートすることを目指し、当協会が2010年から開催しているプレスセミナーです。毎回、口腔衛生に関するテーマを取り上げて、これからの歯科が担う役割の大きさや魅力について情報をお伝えしています。
 
講演①:ここまで進化!歯科の最先端技術は患者さんにも社会にも大きなメリットが!Society5.0時代の歯科医療におけるDX
講演②:コロナ禍のマスク生活で気になる 口臭の仕組みと対策
 
◇日時: 10月22日(金)  14:00~15:30
◇登壇者:
講演① 東京歯科大学 (口腔病態外科学講座) 教授・東京歯科大学水道橋病院病院長 片倉 朗氏 
講演② 松本歯科大学(歯科保存学講座)教授・松本歯科大学病院 副歯科病院長 亀山 敦史氏   
一般社団法人 日本私立歯科大学協会 会長  三浦 廣行
一般社団法人 日本私立歯科大学協会 専務理事 羽村 章
 
 
 12回目となる今回は、「ここまで進化!歯科の最先端技術は患者さんにも社会にも大きなメリットが!Society5.0時代の歯科医療におけるDX」と、「コロナ禍のマスク生活で気になる 口臭の仕組みと対策」をテーマに、最前線の研究者が説明を行いました。
 当協会会長・三浦 廣行(岩手医科大学副学長・歯学部長)の挨拶と新型コロナウイルスのワクチン接種に対する当協会会員校における歯科医師によるワクチン接種や学外への接種協力状況についての紹介、専務理事・羽村 章(日本歯科大学歯学部教授)による当協会についてご説明の後、歯科医療における最先端のDX技術と、新型コロナウイルス感染症予防のマスク使用により関心が高まっている口臭対策について、60名以上の報道関係等の皆さまにお伝えしました。
 


「第12回 歯科プレスセミナー」講演風景
(左:片倉 朗 教授 右:亀山 敦史 教授)
 
 
<講演内容> 
 
■講演1
テーマ : 「ここまで進化!歯科の最先端技術は患者さんにも社会にも大きなメリットが!
       Society5.0時代の歯科医療におけるDX」
講師  : 東京歯科大学 (口腔病態外科学講座) 教授
東京歯科大学水道橋病院病院長 片倉 朗氏
 
DXが進行する歯科医療。誰でも、どこにいても、手軽かつ低コストで最新の高度な医療が受けられる時代へ。
政府が提唱しているSociety5.0に伴い、医療・歯科医療の分野においても、DX(Digital Transformation:デジタル技術による社会と生活の変革)が急速に進んでいる。これまでの歯科医療は、個人の高度な技術力による“匠の世界”という一面もあったが、デジタル技術の導入により、誰でも、どこにいても、手軽かつ低コストで最新の高度な医療が受けられる環境になりつつある。
 
光学スキャナをはじめとするデジタル機器により、補綴物の製作期間・コストを圧縮し、産業廃棄物も削減。
一般歯科では、すでにPCなどのデジタル機器が診療用チェアーの周辺に配置され、電子カルテが導入されるなど、デジタル技術の導入が進んでいる。さらに、コンピュータと連携したデジタル機器(光学スキャナ、歯科用CT、3Dプリンタ、ミリングシステムなど)により、補綴物(入れ歯やクラウン、ブリッジなど)の製作過程は、手作りと同等以上の精度で行えるようになった。なかでも、歯型をデータ化する光学スキャナは、型取りと歯型模型製作に用いる石膏が不要になるため、産業廃棄物を削減するSDGsの観点からも社会に貢献するほか、感染リスク低減の点でもメリットを持つものである。
こうした新技術は、製作期間の短縮やコストの低減など、患者さんに大きなメリットをもたらす。従来の技法では、1歯約4〜5万円ほどの費用がかかるジルコニア製クラウンの製作が、デジタル機器を使ったシステム(デジタルデンティストリー)を使用すると同額で約20歯を製作することが可能である。
これらの機器はすでに一般の開業歯科医院にも導入され、現在の歯科大学の学生は皆デジタル機器を使った実習を経験しているので、あと数年で歯科の治療や作業システムは一新されると予測される。
 
東京歯科大学が設立した、歯科医療におけるDXの研究組織「FabLab(ファブラボ:Fabrication Laboratory) TDC」。CAD/CAMや3Dプリンタによる造形物や外科手術の技術を開発。
先端のデジタル技術を積極的に歯科医療に取り入れていくため、東京歯科大学は、研究組織「FabLab(ファブラボ:Fabrication Laboratory) TDC」を立ち上げ、大学全体で総合的に、歯科医療におけるDXの研究開発を行なっている。
ここで研究開発している技術の一例が、CAD/CAMでの入れ歯の製作や、3Dプリンタによるメタルフリーの入れ歯の製作である。もう一つの研究開発が「3Dテクノロジーを用いた口腔顎顔面外科手術支援」で、CAD/CAMやVR技術、MR技術の応用により、コンピュータ上で行った手術のシミュレーションをそのまま再現する手術が可能になった。例えば、骨に対する手術(顎変形症・口蓋裂・顎骨内の腫瘍)は、データからあらかじめ製作したガイドププレートに沿って切ることで精緻な施術が実現。施術者の視野の中に、肉眼では見えない頭蓋骨の形状や血管の位置が投影されるので、切ってはいけない危険な場所を回避できるようになった。
また、インクジェット3Dプリンタで作製した造形モデルは、神経や病変部分などを着色して示してくれるので、さまざまな角度から観察でき、診断や手術に大いに貢献するものである。
顎骨再建オーダーメイドシステムでは、海外の専門のエンジニアとオンラインで腫瘍の切除範囲・移植骨・再建プレートデザインをディスカッションしてオーダーしている。データをもとにしたプラモデルのようにぴったりのサイズのプレートを用いることで、手術時間・出血量が少ない、最小限の手術が実現している。
 
遠隔歯科医療に貢献するXR技術。3Ⅾデータの共有により、複数の医師による精度の高い会議や手術支援が可能になる。
「FabLab TDC」では、XR(Extended Reality:拡張現実)技術の研究にも取り組んでいる。具体的には、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)を活用した、仮想空間を現実に重ね合わせる複合現実(Mixed Reality)の技術を実現することで、取り除く病変や、切除してはいけない血管などの3D画像を投影しながら手術や治療をすることが可能になった。
また、XR技術は、遠隔病理診断、遠隔画像診断、遠隔相談、在宅医療でも役立つものである。大学病院と地域の医師、病理医が同時に会議を行う遠隔医療カンファレンスは千葉県市川市ですでに運用されているほか、遠隔地にいる医師がその場にいるようにアバターで表示されるシステムも開発した。遠隔手術支援では、遠隔地にいる医師がPC上で描いた文字や矢印などが3次元空間に示され、手術をサポートすることが可能である。また、ヘッドマウントディスプレイで示される3D画像、患者さんによりわかりやすく説明するためのツールとしても活用できる。
 
 
■講演2
テーマ :「コロナ禍のマスク生活で気になる 口臭の仕組みと対策」
講師  : 松本歯科大学(歯科保存学講座)教授 松本歯科大学病院 副歯科病院長 亀山 敦史 教授
 
マスクを着けることが「当たり前」で「エチケット」の1つになる時代へ。
マスク着用により、口臭が気になる人が約40%いる一方、気にすることが減った人も約25%にのぼる。
新型コロナウイルス感染症がパンデミックの状態になって以降、感染予防のためにマスクを着けることはごく当たり前の習慣になり、エチケットの意味合いも持って着用されている。
日本私立歯科大学協会が、全国の10代から70代の1,000人を対象に歯科診療や歯科医師に関する意識調査を実施した結果、新型コロナウイルス感染症の蔓延拡大によって、行動の変化が生じ、特にマスクの着用が歯や口に影響を及ぼしていることが明らかとなった。特に注目すべきは、「マスクをするようになって、自分の口のニオイが気になるようになった」と回答した方が全体の約40%いた一方で、「マスクをするようになって、歯の健康や口臭を気にすることが減った」という全く逆の回答も約25%にのぼったことである(図1)。
 
図1 コロナによる行動変化が歯・口に及ぼす影響
 
出典:「歯科診療や歯科医師に関する意識調査」(2020年9月)
 
 
口臭は自分で判定できないもの。自覚があっても実際は口臭のない人は約半数。
しかし、家族など近い人からの指摘があった場合は要注意で、口臭がある場合が多い。
口臭の9割は、口の中から発生するものである。口の中の粘膜からはがれ落ちた上皮細胞が、細菌の発する酵素によって分解される。この分解が進むと硫化水素(H2S)やメチルメルカプタン(CH3SH)、ジメチルサルファイド(CH3)2Sといったイオウ系のガスを発生し、これが口臭のもととなる。
このようなメカニズムで口臭は発生するが、鼻腔は口腔とつながっていることから、口臭に対して嗅覚は順応を起こすため、自覚することは難しい。それでも、「口臭が強い」ことを悩んでいる人は13.5%(※1)いる。一方、口臭外来の受診者から得たデータ(※2)では、口臭を自覚して受診し、実際に一定の口臭があったのは約30%で、「口臭なし」と判定された人の方が多数(48%)であった。
口臭を自覚し、口臭に悩むようになった人のうち、家族などから指摘をされたことがきっかけであった場合では、実際に口臭を認めるケースがほとんどである。一方で、会話の相手が鼻の近くに手を当てたなどの仕草がきっかけで口臭を意識するようになった場合、統計では口臭の有無とは全く関連性がなかった。そのため、「口臭の自覚」と「口臭の有無」は無関係というのが一般論である。
※1 日本私立歯科大学協会「歯科診療や歯科医師に関する意識調査」(2020年9月)
※2 東京歯科大学千葉歯科医療センター調べ(2015年)
 
マスク着用で口臭が「気になる」ようになった理由は、菌の繁殖と、温められた唾液の濃縮化による臭いの増強。マスク着用で口臭が「気にならなくなった」理由は、臭いの強さの感覚が低下によるもの。
唾液は本来、無臭である。それにもかかわらずマスクに付着した唾液が臭う人がいる理由は、飛沫中の菌が繁殖したこと、そして、呼気で付着した唾液が温められて唾液中の水分が蒸発し、臭いのもとが濃縮されて臭いが増強されたことによると考えられる。
その一方、マスク着用で、口臭が気にならなくなった人がいる理由は、着用によって臭いの強さの感覚が低下するからである。しかし口臭のもととなる硫化水素は、高性能のマスクでも完全に遮蔽できるわけではないので、マスクがあるからといって安心できるわけではない。
 
起床時のほか、女性ホルモンや食事などさまざまな理由で発生する口臭。
歯周炎による口臭は治療によって低減化が可能。
日本口臭学会では口臭症治療のガイドライン「口臭への対応と口臭症治療の指針2014」を作成している。
その中で、誰にも発生する可能性のある生理的口臭に分類されるのが「起床時口臭」「空腹時口臭」である。起床時は一日で最も口臭が出やすく、食事をすると口臭レベルは低くなる。そのため、朝食を抜くと口臭レベルは高いまま推移する。このほか、試験前などの緊張時にも、唾液量減少により「緊張時口臭」が引き起こされる。
ホルモンの変調に起因する生理的口臭としては「月経時口臭」があり、月経時の唾液中のストレス物質の増加と唾液量減少により引き起こされる。
病的(器質的・身体的)口臭の原因としては「歯周炎」があげられるが、歯石除去などの歯周基本治療を行うことで口臭レベルを低下させることができる。また、舌苔と胃病変に関する論文(※3)では、胃のびらんが高度になると、口臭のもとになる舌苔は厚くなることが指摘されている。
※3 土佐寛順 ほか.日本消化器内視鏡学会誌 30(2), 303-313, 1988. ほか
 
口臭予防に効果を発揮するケア用品・成分。
病的な理由による口臭の場合は、歯科医院や専門外来による治療やセルフケア指導が効果的。
歯磨き剤や洗口剤に配合されているCPC(塩化セシルピリジニウム)は、ブラッシングと組み合わせることで口中の雑菌数を減らすのに有効である。塩化亜鉛とグルコン酸銅は、口臭の原因となるイオウ系ガスと結合して発生量を抑制する効果が認められている。このほか、銅製のスクレイパーで舌をケアすることも有効である。
これらのケア用品の使用も有効であるが、歯周病や粘膜の炎症が原因である場合は歯科医院を受診し、適切な治療を受けることが大切である。日本私立歯科大学協会の会員大学附属病院では、専門外来を設けている施設が多数あるので、ぜひ活用していただきたい。
 
【開催概要】
日 時 : 2021年10月22日(金)  14:00~15:30
主 催 : 一般社団法人 日本私立歯科大学協会
内 容 :
<講演1>
 テーマ:ここまで進化!歯科の最先端技術は患者さんにも社会にも大きなメリットが!
      Society5.0時代の歯科医療におけるDX
 講師:東京歯科大学 (口腔病態外科学講座) 教授
 東京歯科大学水道橋病院病院長 片倉 朗氏
 
<講演2> 
 テーマ:コロナ禍のマスク生活で気になる口臭の仕組みと対策 」
 講師:松本歯科大学(歯科保存学講座)教授
 松本歯科大学病院 副歯科病院長 亀山 敦史氏
 
 
【ご参考】
一般社団法人 日本私立歯科大学協会について
 日本私立歯科大学協会は、昭和51年に社団法人として設立しました。歯科界に対する時代の要請に応えられる有用な歯科医師を養成していくため、全国17校の私立歯科大学・歯学部が全て集まりさまざまな活動を展開しています。また、加盟各校では、私立ならではの自主性と自由さを生かして、それぞれに特色を発揮しながら歯科医学教育を推進しています。
 日本の歯科医学教育は、明治以来、私立学校から始まったもので、現在も歯科医師の約75%が私立大学の出身者であるなど、加盟校は歯科界に大きな役割を果たしてきました。本協会ではこのような経緯を踏まえながら、今後とも歯科医学教育、研究および歯科医療について積極的に情報提供を進めていきます。
 
<加盟校>
日本全国の全ての私立歯科大学・歯学部(15大学17歯学部)が加盟しています。
○北海道医療大学歯学部     ○岩手医科大学歯学部     ○奥羽大学歯学部 
○明海大学歯学部        ○東京歯科大学        ○昭和大学歯学部     
○日本大学歯学部        ○日本大学松戸歯学部     ○日本歯科大学生命歯学部 
○日本歯科大学新潟生命歯学部  ○神奈川歯科大学       ○鶴見大学歯学部
○松本歯科大学         ○朝日大学歯学部       ○愛知学院大学歯学部 
○大阪歯科大学         ○福岡歯科大学
 
 
【所在地等】 〒102-0074 東京都千代田区九段北4-2-9 私学会館別館第二ビル2階
        TEL.03-3265-9068 FAX.03-3265-9069
        E-mail :jimkyoku@shikadaikyo.or.jp
        URL : https://www.shikadaikyo.or.jp
 
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~新型コロナウイルス感染症と歯科医療~ 『第11回 歯科プレスセミナー』をオンラインで開催 /release/202010236149 Fri, 23 Oct 2020 15:30:00 +0900 日本私立歯科大学協会   ~新型コロナウイルス感染症と歯科医療~ 『第11回 歯科プレスセミナー』をオンラインで開催 講演1:ウイルスに対抗する歯科の重要性       講演2:私立歯科大学・歯学部における感染対策の現状... 一般社団法人 日本私立歯科大学協会
 
~新型コロナウイルス感染症と歯科医療~
『第11回 歯科プレスセミナー』をオンラインで開催
講演1:ウイルスに対抗する歯科の重要性
      講演2:私立歯科大学・歯学部における感染対策の現状
 
◇日時    : 10月21日(水)  14:00~15:45
◇登壇者: 講演① 日本歯科大学附属病院口腔外科                  小林 隆太郎 教授
      講演② 昭和大学歯学部長・日本私立歯科大学協会常務理事
                  日本私立歯科大学協会附属病院感染対策協議会議長 槇 宏太郎 教授(ビデオ出演)
                   講演②質疑応答 北海道医療大学歯学部生態機能・
                   病態学系顎顔面口腔外科学                                       永易 裕樹 医長
                   一般社団法人 日本私立歯科大学協会 会長              三浦 廣行
                   一般社団法人 日本私立歯科大学協会 専務理事       羽村 章
                       
 
 一般社団法人 日本私立歯科大学協会(所在地:東京都千代田区、会長:三浦 廣行)は、2020年10月21日(水)に、オンラインで『第11回 歯科プレスセミナー』を開催いたしました。
 
 これは、歯科医療の見地から、皆様の健康的な生活を考え、サポートすることを目指し、当協会が2010年から開催しているプレスセミナーです。毎回、口腔衛生に関するテーマを取り上げて、これからの歯科が担う役割の大きさや魅力について情報をお伝えしています。
 11回目となる今回は、「新型コロナウイルス感染症と歯科医療」をテーマに、「ウイルスに対抗する歯科の重要性」と「私立歯科大学・歯学部における感染対策の現状」について、最前線の研究者が説明を行いました。
 当協会会長・三浦廣行(岩手医科大学副学長・歯学部長)の挨拶と、専務理事・羽村 章(日本歯科大学教授、前生命歯学部長)による最新の意識調査結果の報告の後、世界的に猛威をふるう新型コロナウイルスの感染症予防に対して、ウイルスの侵入口である口腔のスペシャリストとして歯科医師・歯科医学界ができること及びその現状について、85名の報道関係者等の皆さまにお伝えしました。

   

「第11回 歯科プレスセミナー」講演風景(左:小林 隆太郎 教授 右:槇 宏太郎 教授)

 
< 講演内容 > 
■講演 1
テーマ : 「ウイルスに対抗する歯科の重要性」
講師     : 日本歯科大学附属病院口腔外科 小林 隆太郎 教授
 
歯科医師と歯科衛生士は感染リスクが高い職業とされているにもかかわらず、新型コロナウイルスの感染例はゼロ
今年、新型コロナウイルスの感染拡大が広がる中で、歯科界では一般社団法人日本歯科医学会連合が「新型コロナウイルス感染症対策チーム」を設置し、エビデンスのある感染防止情報の周知にあたった。
医療従事者は新型コロナウイルスへの感染リスクが高い職種で、その中でも歯科衛生士と歯科医が1位と2位といわれている(出典:米国「GOBankingRates」の「COVID-19リスクスコア」)が、日本では、歯科診療を原因とする新型コロナウイルスの感染例は報告されていない。以前より歯科で行われてきた治療環境や機器の徹底した消毒が、感染防止につながったと評価できる。
 
治療環境の消毒や防護服、患者様の体調管理により感染を予防。治療中はバキュームの活用により飛沫・エアロゾルの拡散を抑制
新型コロナウイルスに限らず、感染対策の基本は「すべての患者のすべての湿性生体物質(血液、唾液、体液、分泌物、嘔吐物、排泄物、創傷皮膚、粘膜など)は感染の危険性がある」という前提に立った標準予防策(スタンダード・プリコーション)と感染経路別予防策を講じることである。
日本歯科医師会では『新たな感染症を踏まえた歯科診療の指針』を作成し、新型コロナウイルス感染予防の指針を示している。具体的には、治療環境や医療機器を次亜塩素酸ナトリウムや消毒用アルコールで清拭し、接触の可能性が高い部分は事前にカバーすることで衛生を保っている。歯科医やスタッフは手指消毒の徹底はもちろん、個人防護具(手袋、マスク、ガウン、眼への曝露を防ぐゴーグル、フェイスシールド)により感染防止を図っている。治療中に口から放出される飛沫とエアロゾルは、治療機器の調整による放出される水量を調整し、口腔内バキュームに加えて口腔外バキュームを活用することで拡散を抑制している。
 
待合室・治療室・スタッフルームで3密対策を講じ、接触感染・飛沫感染を予防
医院内での「密集」「密接」「密閉」の回避のため、診療予約の間隔や使用ユニットを調整して待合室の人数を減らすほか、動線の分離、定期的な窓開けによる換気が実施されている。飛沫感染・接触感染を予防するために、受付スタッフがマスク装着を装着し、アクリル板などによる遮蔽を行い、消毒できないものは撤去している。患者様には、体温や体調の確認を行い、手指消毒のほか、治療前後のうがいのご協力をお願いしている。
院内クラスター発生の予防にはスタッフへの対策も重要で、健康管理を徹底し、診療着の適正な交換、医局での定期的な換気が実施されている。休憩時においても対策を徹底し、対面を避け食事をとるようにしている。
 
新型コロナウイルスは口腔内の細胞に感染する。
新型コロナウイルス感染者の重症化を防ぐためにも、「口腔健康管理」による基礎疾患の予防・改善が重要
口腔内の粘膜には、ウイルスをキャッチするACE2(アンジオテンシン変換酵素2)受容体を持つ細胞が存在し、そこに新型コロナウイルスが感染するというメカニズムが明らかになっている。症状の一つである味覚異常も、舌の粘膜にウイルスが感染することによって引き起こされると考えられており、新型コロナウイルスと口腔の関連性は深い。
また、慢性呼吸器疾患や糖尿病やがんなどの疾患を持つ新型コロナウイルス感染者は重症化率・死亡率が高くなるため、これらの疾患の予防・改善も対処すべき対策のひとつである。歯周病や口腔細菌はこれらの全身の病気に影響を与えることが明らかになっている。
このほか、インフルエンザやHIVなどの感染症においても、口腔細菌との関連性が指摘されており、歯科治療や日常の歯磨きなどの「口腔健康管理」が新型コロナウイルスに限らず、さまざまな感染症の予防に有効である。
 
健康寿命延伸のために「口腔健康管理」が重要。
新型コロナウイルス感染症は、新時代の歯科医療環境を構築する「入口戦略」として取り組みたい
口腔の健康は全身の疾患に影響を及ぼし、最近の研究では歯周病が認知症を悪化させるメカニズムが判明したほか、新血管疾患との関係性も指摘されており、「口は健康の入口、病気の入口」と言うことができる。歯科医師は歯だけを治療するのではなく、国民のトータルな健康への貢献することを目指しており、健康寿命延伸のために、がん、心臓疾患などの予防などに加え、口腔健康管理が重要であると考えていただきたい。
新型コロナウイルスをはじめとする感染対策については、歯科大学・歯学部において教育と実践を行うと同時に、歯科医療従事者への法定講習などを通じて院内感染対策の周知を図ることが重要である。新型コロナウイルス感染症への対策は「出口戦略」ではなく、新しい時代の歯科医療環境を構築するための「入口戦略」ととらえ、より高いレベルの予防の習慣と工夫を作り出していきたい。
 
■講演 2
テーマ : 「私立歯科大学・歯学部における感染対策の現状」
講師     : 日本私立歯科大学協会常務理事 
         日本私立歯科大学協会附属病院感染対策協議会議長(昭和大学歯学部長)
                               槇 宏太郎 教授
 
「私立歯科大学協会附属病院感染対策協議会」を約10年前に発足して感染症対策を強化。
私立歯科大学・歯学部における感染対策教育や、附属病院における感染対策の強化・充実に資するために設置された組織が「私立歯科大学協会附属病院感染対策協議会」である。2011年の設立以来、毎年度、感染対策についての調査を実施するとともに、感染対策協議会を開催して情報共有や意見交換を行っている。
同会の活動により、私立歯科大学・歯学部及び附属病院における感染対策への取り組みは大きく前進しており、2018年度に加盟校を対象に実施した「感染対策強化に関するアンケート調査」の結果からは、新型コロナウイルス感染症が発生する以前から、歯科医療や教育の現場では感染症に対して高い意識を持ち、対策を講じている実態が明らかになっている。
「感染対策強化に関するアンケート調査」
調査対象期間:2018年4月1日~2019年3月31日、対象:私立歯科大学協会加盟校(17校)
 
学部学生から臨床実習生、臨床研修歯科医まで、歯科医療を学ぶすべてのステージで感染症教育を実施。病院職員に対する講習も複数回実施。
私立歯科大学・歯学部の学部学生に対する「院内感染対策」の講義は、1学年から6学年までの間で実施されており、総講義時間平均は約670分±491.8分であった。微生物学・細菌学、口腔外科などの講義の一環として実施されるほか、院内感染対策委員会のなかで講義が行われている。
臨床実習生と臨床研修歯科医に対しても、「院内感染対策」についての講義がすべての学校で実施され、院内感染対策・ICT(感染対策チーム)や口腔外科などの講座の一環として行われている。
病院職員に対する「院内感染対策講習会」は、年度内に複数回実施されており、その内容は、感染予防の基準となる標準予防策や清掃・滅菌法のほか、抗菌薬の知識習得、災害時の対策、インフルエンザなどのウイルス対策など多岐にわたる。
 
感染につながる「針刺し・切創」などの事故に対応。抗ウイルス薬投与などの対策により感染を予防
使用済みの医療用針を誤って手指に射してしまったり、スケーラーなどの機器で傷を作るなどの事故は、感染リスクに直結する。当協会でこの問題に取り組んだ結果、私立歯科大学・歯学部附属病院での事故件数は減少傾向となっている。
2018年度に発生した事故の約8割にあたる100件の事例では、汚染源となる可能性のある対象(患者)の把握が行われている。また、17校中16校において、HIV感染の可能性を確認するために受傷後の抗体検査を実施している。粘膜に曝露した事故でも、計9件のうち8件で汚染源の対象の把握が行われている。
事故が起きた際のHIV感染対策として、全体の約半数である7校では抗HIV薬が常備され、常備していない学校でも確保ができるように他施設での保管状態を確認している。また、受傷の際の汚染源が特定できない場合は、感染予防のために6校が抗HIV薬の服用を推奨している。
以上のように、新型コロナウイルスの感染拡大以前から、私立歯科大学・歯学部では感染症対策の教育が行われ、附属病院でも対策がとられているので、患者様には安心して歯科診療を受けていただきたい。
 
【開催概要】
日 時 : 2020年10月21日(水)  14:00~15:45
主 催 : 一般社団法人 日本私立歯科大学協会
内 容 : <講演1>
    テーマ:「ウイルスに対抗する歯科の重要性」
              講師    :日本歯科大学附属病院口腔外科  小林 隆太郎 教授
           <講演2> 
              テーマ:私立歯科大学・歯学部における感染対策の現状」
              講師    :日本私立歯科大学協会常務理事
                            日本私立歯科大学協会附属病院感染対策協議会議長(昭和大学歯学部長) 
                                                                              槇 宏太郎 教授
 
【ご参考】
一般社団法人 日本私立歯科大学協会について
 日本私立歯科大学協会は、昭和51年に社団法人として設立しました。歯科界に対する時代の要請に応えられる有用な歯科医師を養成していくため、全国17校の私立歯科大学・歯学部が全て集まりさまざまな活動を展開しています。また、加盟各校では、私立ならではの自主性と自由さを生かして、それぞれに特色を発揮しながら歯科医学教育を推進しています。
 日本の歯科医学教育は、明治以来、私立学校から始まったもので、現在も歯科医師の約75%が私立大学の出身者であるなど、加盟校は歯科界に大きな役割を果たしてきました。本協会ではこのような経緯を踏まえながら、今後とも歯科医学教育、研究および歯科医療について積極的に情報提供を進めていきます。
<加盟校>
 日本全国の全ての私立歯科大学・歯学部(15大学17歯学部)が加盟しています。
○北海道医療大学歯学部     ○岩手医科大学歯学部     ○奥羽大学歯学部 
○明海大学歯学部        ○東京歯科大学        ○昭和大学歯学部     
○日本大学歯学部        ○日本大学松戸歯学部     ○日本歯科大学生命歯学部 
○日本歯科大学新潟生命歯学部  ○神奈川歯科大学       ○鶴見大学歯学部
○松本歯科大学         ○朝日大学歯学部       ○愛知学院大学歯学部 
○大阪歯科大学         ○福岡歯科大学
 
【所在地等】 〒102-0074 東京都千代田区九段北4-2-9 私学会館別館第二ビル2階
       TEL.03-3265-9068 FAX.03-3265-9069
       E-mail :jimkyoku@shikadaikyo.or.jp
       URL     : https://www.shikadaikyo.or.jp
 
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全国の10~70代の男女1,000人に聞く「歯科診療」および「歯科医師」に関する第5回意識調査 /release/202010185861 Wed, 21 Oct 2020 14:00:00 +0900 日本私立歯科大学協会 一般社団法人日本私立歯科大学協会(東京都千代田区)は、11月8日の「いい歯の日」を前に、幅広い世代(10~70代)の男女1,000人に対して、「歯科診療」および「歯科医師」に関する意識調査を実施しまし... 一般社団法人日本私立歯科大学協会
11月8日はいい歯の日!
全国の10~70代の男女1,000人に聞く
「歯科診療」および「歯科医師」に関する第5回意識調査
新型コロナで、歯や口内の健康リスクがアップ?
新型コロナウイルス感染拡大で、約6割が歯科受診を控えたいと回答
この人に診てほしい…「理想の歯科医師像」
男性は 福山雅治さん、女性は 天海祐希さん
一般社団法人日本私立歯科大学協会(東京都千代田区)は、11月8日の「いい歯の日」を前に、幅広い世代(10~70代)の男女1,000人に対して、「歯科診療」および「歯科医師」に関する意識調査を実施しました。前回2016年に続く今回は、5回目の調査となります。
◆調査期間:2020年9月16日(水)~9月18日(金)
◆調査対象:10~70代の男女1,000人

■新型コロナで、歯や口内の健康が損なわれやすい状況に
・コロナ感染拡大で、61.7%が「歯科受診や健診を控えたい、できれば控えたい」と回答。
・これまで歯科医院でコロナ感染が起こっていないことを、73.8%が「知らなかった」。
・「マスクをするようになって、笑ったり、口を大きく動かすことが少なくなった」(44.3%)、
 「マスクをするようになって、歯の健康や口臭を気にすることが減った」(25.4%)など、
 コロナ以降、歯や口内の健康が損なわれやすい状況になっている。

■かかりつけ歯科医院がある人は約7割、前回調査から6ポイントUP
・かかりつけの歯科医院がある人は70.1%。前回調査(2016年)から6ポイント上昇。
・かかりつけの歯科医院の満足度は約80点(79.5点)。

■理想の歯科医師像は 男性福山雅治さん、女性天海祐希さん
・理想の歯科医師の条件は「高い技術」(74.0%)、「丁寧な治療」(72.7%)、「人柄・優しさ」(70.1%)。
・有名人に例えると、男性では「福山雅治」さん、女性では「天海祐希」さん。

調査概要/まとめ
【1】コロナ禍での歯科受診について
新型コロナウイルスの感染が拡大する状況下での歯科受診について調査を実施。新型コロナウイルス感染が広がっている時期(2020年2月~8月)の歯科受診・歯科定期健診に関して聞いたところ、「感染拡大中に受診・健診を控え、現在も実施していない」人が、「歯科受診」で19.8%、「歯科定期健診」で21.4%といずれも約5人に1人となりました。

そこで、あらためて「新型コロナウイルス感染が広がっていることで、あなたは、歯科受診や歯科定期健診を受けることについて、どのように感じていますか?」と聞くと、61.7%が「歯科受診や健診を控えたい/できれば控えたい」と回答。その理由としては、「口をあける必要があるため、感染リスクがあると思うため」(63.2%)が1位、「歯科医師や歯科衛生士と近い距離で治療や検査を受けるため、感染リスクがあると思うから」(54.0%)が2位に。感染を懸念して、歯科受診や健診に消極的な姿勢になっているようです。

しかし、2020年9月時点で、歯科医院で新型コロナウイルスの感染は起こっていません。このことを知っていたかを聞いた質問では73.8%と大多数が「知らなかった」と答えています。

また、新型コロナウイルスの感染が拡大し、マスクの着用が日常的になってからのことを聞いた質問では、「マスクをするようになって、歯の健康や口臭を気にすることが減った」(25.4%)人が4人に1人という結果に。そのほか、コロナ以降、「在宅時間が増えて、間食や、晩酌など、食べたり飲んだりしている時間が増えた」人も43.3%に上っており、新型コロナウイルスの感染拡大状況下は、歯や口内の健康を損ないやすい環境であるといえそうです。

【2】歯科診療・歯科医師に対する意識と実態
「歯科医院への通院経験」を聞いたところ、97.3%と大多数が「通院したことがある」と回答。そのうち約7割(65.8%)が「約1年以内に通院した」と答えています。また、通院経験がある方(973人)が「歯科医院に通う(通った)目的」としては、「むし歯の治療」(46.1%)、「歯のクリーニング(歯垢・歯石除去)」(34.6%)、「むし歯の予防」(24.5%)などが上位となりました。さらに、「主にどのような時に歯科医院に行きますか?」という質問では、「定期健診などで定期的に受診している」が38.9%でトップに。前回(2016年)の30.3%と比べても8ポイント以上の上昇がみられ、定期的な歯科受診の考え方が広がっている様子がうかがえます。

次に、「かかりつけの歯科医院があるか」を聞いたところ、70.1%が「ある」と回答。こちらも前回(64.3%)と比べると約6ポイント上昇しており、かかりつけ歯科医の普及が進んでいる様子がうかがえます。なお、「かかりつけになってからの年数」は平均で約「8.9年」、「かかりつけの歯科医院の満足度」は全体平均で「約80点(79.5点)」に上りました。また、「かかりつけの歯科医院があることのメリット」を聞いた質問では、「安心して治療が受けられる」が65.8%で最多に。こうした安心感が、かかりつけ医師との長い付き合いや、高い満足度につながっているのかもしれません。さらに、「かかりつけの歯科医院を選ぶ際、重視したこと」については、「立地がよい」(59.4%)に次いで、「歯科医師の人柄がよい」が54.1%となりました。「通いやすさ」だけでなく、「歯科医師の人物像」を重視している人が多いことが分かります。

また、高齢化が進む日本社会においては、将来的に、通院ではなく、歯科医師や歯科衛生士が自宅に来て診療する「訪問(在宅往診)歯科診療」の需要が増えていくと考えられます。現時点での利用・認知状況を聞くと、訪問(在宅往診)歯科診療を自分または家族が利用したことがある人は10.7%となりました。さらに、認知率についても、半数近く(47.0%)に上っています。

続いて、「歯科医師のイメージ」について調査を実施。その結果、歯科医師は「清潔だ」(91.6%)、「丁寧だ」(85.1%)、「信頼できる」(83.2%)、「やさしい」(77.7%)などの回答が多く挙がりました。なお、職業として捉えた場合では、「収入が高い仕事」(90.9%)、「やりがいがある仕事」(87.0%)、「尊敬される仕事」(85.9%)などが上位に。一方で、その責任の重大さからか、「ハードな仕事」(78.3%)というイメージを持つ人も多いようです。また、「歯科医師は、子どもや孫になってほしい職業」と答えた人も半数以上(50.1%)に上っています。

さらに、自身が考える「理想の歯科医師」について質問すると、「高い技術で治療をしてくれる」が74.0%で最多に。以下、「丁寧な治療をしてくれる」(72.7%)、「人柄がよい・優しい」(70.1%)と続きました。また、「この人が歯科医師だったら、診てもらいたいと思う有名人」について聞くと、男性では福山雅治さん(30票)、女性では天海祐希さん(68票)に支持が集まりました。

【3】口内環境・オーラルケアに対する意識と実態
「口内環境・オーラルケア」に関しては、まず「自身の歯の本数」について質問しました。永久歯は全部で28本であり、親知らずが4本あると合計32本になります。これを踏まえて、年代別に回答を見ると、10代では平均28.4本ですが、その後、年齢が上がるにつれて平均本数が減っていき、50代では25.0本、60代では24.1本、70代では21.8本がそれぞれの平均値となりました。

次いで、現在の「歯や口腔の悩み」を聞くと、「食べ物がはさまる」(29.8%)、「歯並び・噛み合わせ・すき歯」(24.2%)、「むし歯がある」(23.3%)、「歯垢・歯石が多い」(23.2%)などが上位に。また、自分の「歯や口腔の健康に対する自信」を質問すると、「自信がある」と答えた人は27.0%にとどまり、残りの約7割(73.0%)は「自信がない」と答えました。こうした「歯や口腔の健康に対する自信」は、口腔内以外の健康面や精神面にも大きく影響するようで、前問で「自信がある」と答えたグループと「自信がない」グループでは、「健康である」と思うかどうかで28.4ポイント、「滑舌がいい」かで28.2ポイント、「毎日が充実している」かで25.2ポイントの差が生じています。

一方で、「他人の口内環境で気になる点」としては、「口臭が強い」(68.3%)が最も多く、以下、「タバコのヤニ・茶渋の沈着・歯の黄ばみ」(59.6%)、「歯並び・すき歯・噛み合わせが悪い」(56.7%)、「歯垢・歯石が多い」(56.1%)などの回答が目立っています。

次に、「オーラルケア」について質問しました。オーラルケアとは、口腔内のケア、つまり歯や歯ぐき、舌などを清潔にし、健康的に保つことを指します。まず、 「自分で行っているオーラルケア」について聞くと、「歯ブラシで歯磨き」(87.3%)のほか、「歯間ブラシやフロスを使用する」(41.0%)、「自分に合った歯ブラシを選ぶ」(35.0%)、「マウスウォッシュを使用する」(26.7%)などが上位となりました。続いて、「歯科医院でのオーラルケア」について聞いた質問では、「必要だと思うので、実際に受けている」が45.3%と半数近くに。前回の34.6%と比べても10ポイント以上増えており、歯科医院でのオーラルケアが普及していることが分かります。なお、歯科医院で実際にオーラルケアを受けていると回答した人(453名)にその内容を聞くと、「歯垢・歯石除去、機械による清掃」(85.2%)が最多で、以下、「むし歯のチェック」(68.4%)、「歯周病チェック・予防」(58.7%)、「歯磨き指導」(55.6%)と続きました。さらに年代別でも違いが見られ、10代では「フッ素塗布」が35.6%と、全体平均(23.4%)を大きく上回っているほか、50代では「歯周病チェック・予防」(70.3%)の回答、70代では「義歯のメンテナンス」(20.7%)の回答が目立っています。

「歯や口腔の健康についての考え」を聞いた質問では、歯や口腔を健康に保つことが「全身の健康にとって大切である」と回答した人が95.9%という結果に。また、「自分の歯で食事を行うことが、『健康長寿』において重要だ」(93.8%)、「歯や口腔を健康に保つことは、体の老化を防止することに役立つ」(91.4%)と回答した人も多く、それぞれ9割を超えています。

※詳しい調査結果はPDFにてご確認いただけます。
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『第10回 歯科プレスセミナー』を開催 /release/201910312926 Thu, 31 Oct 2019 16:30:00 +0900 日本私立歯科大学協会  一般社団法人 日本私立歯科大学協会(所在地:東京都千代田区、会長:三浦 廣行)は、2019年10月25日(金)に、アルカディア市ヶ谷 3階 「富士」(東京都千代田区)において、『第10回 歯科プレス... 一般社団法人 日本私立歯科大学協会
~急発展を遂げる、歯科医療が見据える国民健康の最前線~
「イグ・ノーベル賞」を受賞した研究など
「口や歯の健康を守る唾液の科学」について講演
『第10回 歯科プレスセミナー』を開催
 一般社団法人 日本私立歯科大学協会(所在地:東京都千代田区、会長:三浦 廣行)は、2019年10月25日(金)に、アルカディア市ヶ谷 3階 「富士」(東京都千代田区)において、『第10回 歯科プレスセミナー』を開催いたしました。

 これは、歯科医療の見地から、皆様の健康的な生活を考え、サポートすることを目指し、当協会が2010年から開催しているプレスセミナーです。毎回、口腔衛生に関するテーマを取り上げて、これからの歯科が担う役割の大きさや魅力について情報をお伝えしています。
 第10回目となる今回は、今年9月に独創的でユニークな科学研究などに贈られる「イグ・ノーベル賞」を受賞された、明海大学保健医療学部 渡部 茂 教授を講師にお迎えし、講演を実施しました。「口や歯の健康を守る唾液の科学」をテーマに、受賞された研究の内容なども交えながら、口腔機能のなかでも重要な機能の一つである唾液の働きについて、ご参加いただいた23名の報道関係者の皆さまにお伝えいたしました。


「第10回 歯科プレスセミナー」講演風景

<講演内容> 
テーマ:「口や歯の健康を守る唾液の科学」
講師:明海大学保健医療学部 渡部 茂 教授

●5歳児が1日に分泌する唾液量の研究により、イグ・ノーベル賞を受賞。
 今年9月、私が1995年に発表した研究「5歳児が1日に分泌する唾液量の測定」が、イグ・ノーベル賞化学賞を受賞した。
 イグ・ノーベル賞とは、「人々を笑わせ、そして考えさせてくれる業績」に与えられる賞で、ノーベル賞のパロディである。
 選考委員は、ハーバード大学やマサチューセッツ工科大学の教授らが務め、1万件を超える論文から受賞者・団体が選出される。
 授賞式はハーバード大学のサンダーズ・シアターで行われ、プレゼンターとしてノーベル賞受賞者も多数参加する。賞金は10兆ジンバブエドルであるが、ハイパーインフレのためほとんど価値がないと言われている。


撮影:時事通信

●食べ物を吐きだして重量を図る方法で、5歳児の食事中の唾液量を測定。
 実験を行なった1990年頃は、睡眠時の唾液量は0mlで、子供(5歳児)の安静時唾液量は0.26ml/分(1日で208ml)であるという論文が発表されていた。しかし、子供の食事中の唾液量については研究されていなかったので、これに取り組もうと考えた。
 今回の受賞は、大人が5歳の子供にお願いして唾液を採取している様子が面白くて、選考委員たちの目にとまったのだと推測する。授賞式の講演では、聴衆から笑いをとることが要求されるのだが、25年前に実験に協力してくれた私の子供たちに当時の様子を再現してもらったところ、大いに笑いを取ることができた。
 食事中の唾液量の測定は、ご飯やソーセージなど6種の食べ物を咀嚼し、飲み込まずに吐き出してもらい、そこから食べ物の重量を引くという方法で行った。そこに、子供の食事のひと口の量や咀嚼時間を反映したほか、咀嚼(そしゃく)中に飲みこんだり口中に食べ物が残留することによる誤差も生じるため、食物回収率を求めてデータを調整している。そうして食事中の唾液分泌量の平均値(1分当たり)を割り出し、1日に食事に費やす時間と掛け合わせたところ、5歳児の1日の食事中の唾液量は288mlであることが明らかになった。
 このデータに、睡眠時の唾液量(0ml)と、安静時の唾液量(208ml)と合わせて、5歳児が1日に分泌する合計の唾液量は約500mで、中型のペットボトル1本分であることが明らかになった。

●唾液は口中の環境を整え健康に保つ機能を持つ。なかでも重要な役割の一つが、口内を洗浄・中和する「唾液クリアランス」。
 この研究を行った1990年当時、むし歯の子供が多数いたが、その予防の研究があまり進んでいなかった。そこで、酸から歯を守る機能を持つ唾液に着目することで、むし歯予防に貢献できると考えて研究に取り組んだ。
 唾液は、唾液腺の漿液性腺房で作られ導管を通じて口中に到達する。唾液腺は、顎下腺(がっかせん)と耳下腺、舌下腺、小唾液腺がある。成人の安静時には約0.3ml/1分が分泌されるが、なかでも顎下腺の分泌量は多く重要な役割を持つ(図1)。口中に到達した唾液は一定量が溜まると飲みこまれ、そして、徐々に分泌されて再び溜まるというサイクルを持ち、サイホンのような仕組みで供給される。
 唾液は分泌された段階は無菌で、約0.1mmの薄いフィルムになって口中を流れる。これにより、菌などを洗浄し、酸性に傾いた唾液を中和して口の健康を保つ「唾液クリアランス」を行っている。
 「唾液クリアランス」には個人差があり、唾液分泌速度が遅い人は、洗浄や中和の効率が悪くなる。こういった唾液の個人差を診断に生かすことが、今後は必要になると考えている。

唾液が最も早く到達するのは「下顎の前歯の舌側」。
最も遅い「上顎の前歯の唇側」は、むし歯リスクが高いので要注意。
 唾液により「口中クリアランス」が行われているにもかかわらず、実際は、歯の部位によって、その効果は異なる。例えば、下顎に比べて上顎の歯の方が汚れやすく、哺乳瓶を使う赤ちゃんでは上顎の前歯がむし歯になる「哺乳瓶齲蝕」が発生する。
 そこで、口中の7つの部位の「唾液クリアランス」の効率の違いを調査した。その結果、安静時の唾液の到達速度が最も早い部位は「下顎前歯部舌側」、最も遅い部位は「上顎前歯部唇面」であった。また、口中のpHが酸性からアルカリ性へ回復する時間を調べても同様で、「下顎前歯部舌側」が最も早く、「上顎前歯部唇面」が最も遅かった。従って、「上顎前歯部唇面」は、むし歯リスクの高い環境にあるので、歯磨きの際には注意をしていただきたい。

唾液分泌が抑制される睡眠中は、フッ素とマウスガードを使ったむし歯の予防法が有効
 唾液分泌量が0mlになる睡眠中についての研究にも取り組んでいる。むし歯を予防するためにマウスガードにフッ素を塗って睡眠中に装着する方法があるが、唾液分泌量が抑制される就寝中はフッ素が流されにくく、起床時まで口内に残っていることがわかった。部位別でみると、「上顎前歯部唇面」では多くのフッ素が残っており、むし歯予防に効果的であると考えられる。
 このほか、唾液を長時間モニタリングするため、唾液腺を直接刺激して測定するセンサーを開発し、唾液量とpHの変化、酸性の食品を摂取した後の部位別のpHの変化、睡眠中と覚醒時の唾液分泌素速度の変動などを明らかにした。睡眠中は唾液分泌が抑制されるが、粘液は止まることなく分泌されているためpHが大幅に酸性に傾くことはなく、この働きにより、歯は睡眠中もむし歯リスクから守られていることが明らかになった。

酸性の食べ物により歯が弱い状態になっても、数分で「再石灰化」が行われて回復。
「歯磨きは食後30分以上経ってから」とこだわる必要はなく、タイミングを気にせずに磨いてほしい。
 歯は唾液からカルシウムを吸収するが、唾液がpH5以下の酸性になると、逆に歯の中のカルシウムが唾液中に溶け出す「脱灰」が生じる。そして、唾液が酸から中性に戻ると唾液中のカルシウムが歯に吸収される「再石灰化」が行われる。
 このような作用がどのくらいのスピードで行われるか調査したところ、酸性のオレンジジュースを飲んだ場合、5秒以内に大量の唾液が分泌されていることがわかった。それに伴い、唾液は酸性から中性、アルカリ性へと回復し、約30分でもとのpHレベルに回復した。
 「歯は「再石灰化」するまでは弱い状態にあるので、歯磨きは食後30分以上経ってからの方がよい」という説もあるが、以上の実験の結果から「再石灰化」は数分で進むので、歯磨きの時間を遅らせる配慮はいらないと考えている。

唾液の役割の一つは、食べ物の水分量を増やし飲みこみを助けること。
高齢社会において、嚥下に不可欠な唾液はさらに重要なテーマになる。
 食べ物を噛み砕く際に、唾液が加わることで水分量が増し、飲みこみに適した「食塊」をつくることができる。「食塊」の水分量は「嚥下閾」と呼ばれるが、これは食品によって異なり、ご飯では65%、魚肉ソーセージでは67%である。
 また、唾液分泌を増加させる薬と、抑制する薬を服用した場合の比較調査では、分泌を抑制すると咀嚼時間が長くなることがわかっている。
 今後、高齢社会の進展により、唾液分泌量の少ないドライマウスの患者様も増えると推測される。食べ物を安全に飲みこんでいただくためにも、今後さらに唾液について研究し、理解する必要があると考えている。

【開催概要】
日時:2019年10月25日(金) 14:00~15:30
会場:アルカディア市ヶ谷 3階 「富士」(東京都千代田区九段北4-2-25)
主催:一般社団法人 日本私立歯科大学協会
内容:<テーマ >「口や歯の健康を守る唾液の科学」
   <講師>明海大学保健医療学部  渡部 茂 教授

【ご参考】
一般社団法人 日本私立歯科大学協会について
 日本私立歯科大学協会は、昭和51年に社団法人として設立しました。歯科界に対する時代の要請に応えられる有用な歯科医師を養成していくため、全国17校の私立歯科大学・歯学部が全て集まりさまざまな活動を展開しています。また、加盟各校では、私立ならではの自主性と自由さを生かして、それぞれに特色を発揮しながら歯科医学教育を推進しています。
 日本の歯科医学教育は、明治以来、私立学校から始まったもので、現在も歯科医師の約75%が私立大学の出身者であるなど、加盟校は歯科界に大きな役割を果たしてきました。本協会ではこのような経緯を踏まえながら、今後とも歯科医学教育、研究および歯科医療について積極的に情報提供を進めていきます。
<加盟校>
 日本全国の全ての私立歯科大学・歯学部(15大学17歯学部)が加盟しています。
○北海道医療大学歯学部     ○岩手医科大学歯学部     ○奥羽大学歯学部 
○明海大学歯学部        ○東京歯科大学        ○昭和大学歯学部     
○日本大学歯学部        ○日本大学松戸歯学部     ○日本歯科大学生命歯学部 
○日本歯科大学新潟生命歯学部  ○神奈川歯科大学       ○鶴見大学歯学部
○松本歯科大学         ○朝日大学歯学部       ○愛知学院大学歯学部 
○大阪歯科大学         ○福岡歯科大学

【所在地等】 〒102-0074 東京都千代田区九段北4-2-9 私学会館別館第二ビル2階
      (2019年7月に上記に移転しました)
       TEL.03-3265-9068 FAX.03-3265-9069
       E-mail:jimkyoku@shikadaikyo.or.jp
       URL:http://www.shikadaikyo.or.jp
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『第9回 歯科プレスセミナー』を開催 /release/201810269616 Fri, 26 Oct 2018 16:30:00 +0900 日本私立歯科大学協会  一般社団法人 日本私立歯科大学協会(所在地:東京都千代田区、会長:三浦 廣行)は、2018年10月23日(火)に、コンファレンススクエア エムプラス 「サクセス」(東京都千代田区)において、『第9回... 一般社団法人 日本私立歯科大学協会
~急発展を遂げる、歯科医療が見据える国民健康の最前線について講演~
『第9回 歯科プレスセミナー』を開催
講演1 : 原因不明の歯痛への対応 -非歯原性歯痛の臨床-
講演2 : 歯科医学教育の今とこれから -超高齢化時代の歯科医師を育てる
~それぞれのエキスパートが、研究分野の最前線を紹介~
 一般社団法人 日本私立歯科大学協会(所在地:東京都千代田区、会長:三浦 廣行)は、2018年10月23日(火)に、コンファレンススクエア エムプラス 「サクセス」(東京都千代田区)において、『第9回 歯科プレスセミナー』を開催いたしました。

 これは、歯科医療の見地から、皆様の健康的な生活を考え、サポートすることを目指し、当協会が2010年から開催しているプレスセミナーです。毎回、口腔衛生の最前線の情報をお伝えする講演を行っており、今回で9回目を迎えます。
 今回は、歯に原因がないにもかかわらず、歯が痛いと訴える、あるいは歯に痛みがあると感じてしまう「非歯原性歯痛」についてご説明する「原因不明の歯痛への対応 -非歯原性歯痛の臨床-」と、超高齢社会における歯科医療の変化と、歯科医学教育の最前線をご紹介する「歯科医学教育の今とこれから-超高齢化時代の歯科医師を育てる」をテーマに、講演を行いました。
 それぞれの専門家による最前線の情報を、ご参加いただいた36名の報道関係者の皆さまにお伝えいたしました。

          


          

               「第9回 歯科プレスセミナー」講演風景

 ■講演 1
 テーマ : 「原因不明の歯痛への対応 -非歯原性歯痛の臨床-」
 講師 : 日本大学松戸歯学部 口腔健康科学講座(顎口腔機能治療学分野) 教授
      付属病院 口・顔・頭の痛み外来 責任者            小見山 道 氏

●歯に原因がないにもかかわらず歯痛を訴える「非歯原性歯痛」
 私が勤務する日本大学松戸歯学部付属病院の「口・顔・頭の痛み外来」は、首から上の痛みに対応する外来で、歯科医師が中心になり、口腔外科や歯科麻酔科の歯科医師、さらに耳鼻・咽喉科、脳神経外科などの医師と共に治療にあたっている。
 一般に、歯の痛みは、虫歯や歯周炎など原因疾患を治療することでおさまる。しかし、患者さんのなかには、歯に原因がないにもかかわらず歯痛を訴える「非歯原性歯痛」の人がいる。
 歯の痛みで歯科医院を訪れた人のうち3%が「非歯原性歯痛」で、9%が「歯原性歯痛と非歯原性歯痛の混合」というデータもある。非歯原性歯痛は、痛みの場所とその原因部位が一致しないことに起因するが、その原因の一つと考えられる現象は「異所性疼痛」と呼ばれ、歯痛以外の内臓疾患等でも生じることがある。

●脳の勘違いで引き起こされることが多い「非歯原性歯痛」。その原疾患は8パターンに分類される
 「非歯原性歯痛」は、歯に痛みを感じる経路のどこかに問題があり、“神経の混線による脳の勘違い”が原因であることが多い。
 その原疾患は、日本口腔顔面痛学会による『非歯原性歯痛診療ガイドライン』で、8つに分類されている。
1)筋・筋膜性歯痛(咀嚼筋によるものが多い)、2)神経障害性歯痛(三叉神経痛、帯状疱疹、など)、3)神経血管性歯痛(片頭痛、群発頭痛など)、4)上顎洞性歯痛、5)心臓性歯痛(狭心症、心筋梗塞など)6)精神疾患による歯痛、7)特発性歯痛(非定型歯痛を含む)、8)その他のさまざまな疾患により生じる歯痛
 
●「非歯原性歯痛」の診断・治療の例
 「非歯原性歯痛」の原疾患の中で、主なものを紹介したい。
【筋・筋膜性歯痛】
咀嚼筋(咬筋や側頭筋といった噛む筋肉)の炎症が原因で、歯に痛みを感じてしまうケースである。
<診断例>
歯痛を訴える患者さんの痛む歯や、その周囲、他の歯を確認しても問題がなく、歯の局所麻酔を打っても痛みが変わらなかった。その一方、噛む筋肉の触診で痛みが表れ、咬筋への麻酔により歯痛が消失した。このため、咬筋の筋・筋膜性歯痛と診断。温罨法やマッサージ、姿勢の指導などにより痛みが緩和した。
【神経障害性歯痛】
三叉神経痛や顔の帯状疱疹などによる痛みを、歯の痛みと感じてしまうケースである。三叉神経痛は歯がツーンとしみたり、瞬間的な激痛が走り洗面や歯磨きができないなど、生活への影響が大きい疾患である。
<診断例>
口の中に激痛が走る患者さんに対し、唇に刺激をしたところ疼痛発作が発生することを確認。神経の根本への麻酔により発作が消えることから、三叉神経痛と診断。薬の服用により痛みが緩和した。
【神経血管性歯痛】
片頭痛、群発頭痛が原因で、歯に痛みを感じてしまうケースである。群発頭痛は、痛みに時間的な規則性があり、目の奥の痛みが特徴である。群発頭痛では歯科受診を受けることが多く、11%の人が歯科疾患の診断名が最初につけられている。
<診断例>
群発頭痛では1日に数回、奥歯から右の顔全体までアイスピックで突かれているような激痛に襲われる。群発頭痛の薬が効果を見せることがわかり、服用により痛みが緩和した。
<診断例>
片頭痛では2、3週間に数回、歯から始まった痛みが、こめかみ、頭部に広がる。悪心、嘔吐を伴い、寝込む状態だが、発作時以外は日常生活を営める。頭痛日記をつけてもらったところ、片頭痛の発作と同期していることが判明したため、内服薬で経過観察をした。
【その他のさまざまな疾患により生じる歯痛】
口腔領域への転移がんや白血病、糖尿病など全身疾患が原因であるケースである。致命的な全身疾患であることもあるので、原因不明の歯の痛みに対し安易な診断をせず、専門的な検査や連携を行うべきである。
<診断例>
歯が痛くて眠れず、食事もとれない患者さんに対し、CT検査を行ったところがんの頸部リンパ節への転移や、中咽頭側壁部の腫瘍などが確認された。ただちにがんの専門病院での治療を始めたが翌月に他界された。

●歯の痛みから多様な原因疾患を探るのは歯科医師の使命
 以上のように、患者さんが歯の痛みを訴えても、歯が原因でないケースがあり、その診断は難しい。歯だけでなく、口を中心とした顔の筋肉・神経・血管・骨などの構造や機能、疾患に関する専門的な知識をもっている歯科医師だけが、歯の痛みの原因にアプローチできる。そして、歯科医師とさまざまな分野の医師が連携することで、初めて原因不明の歯痛を診断し、治療することが可能となる。
 このような患者さんに対応できるよう、日本私立歯科大学協会では、歯科と医科の架け橋となることのできる歯科医師の育成を応援している。

 ■講演 2
 テーマ : 「歯科医学教育の今とこれから -超高齢化時代の歯科医師を育てる」
 講師 : 大阪歯科大学 高齢者歯科学講座 教授                   髙橋 一也 氏

●超高齢社会において歯科の役割が変化。高齢者が栄養摂取できるように“消化器としての口腔を守る” 仕事が求められる
 日本の高齢化率は27.7%(2017年10月1日時点)。2050年には生産年齢人口と老年人口(65歳以上)の割合が、1.3人対1人になると予測され、今後、認知症患者や高齢者の独居・夫婦のみ世帯の増加、慢性疾患の増加が社会の課題となる。
 それに伴い、歯科医師の役割が変化している。在宅療養患者に対して“かかりつけの歯科医”となり、口腔機能管理(オーラルマネジメント)を行う時代へと向かっていく。入院患者に対しては、口腔ケアにより誤嚥(ごえん)性肺炎・発熱が予防でき、在院日数短縮に貢献することができる。疾病の傾向を見ても、虫歯の患者が減少する一方、歯が残っている高齢者の増加に伴い、高齢者の歯周病の罹患率が増えてきた。今後は、「栄養摂取」を行う消化器としての口腔を守ることが歯科医師の大きな仕事になっていく。
 また、近年の研究で、歯周病と糖尿病などの関わりが明らかになっており、口腔ケアは全身疾患のリスク軽減に貢献する。要介護状態の前段階である「フレイル」(身体の衰え)でも、歯科医師の役割は大きい。従来行われてきた歯の咬合(こうごう)回復だけでなく、機能訓練や食事の調整に関わることで問題解決に貢献できる。

●環境の変化に合わせ「歯科教育モデル・コア・カリキュラム」を改定。「多様なニーズに対応できる医師・歯科医師の養成」を推進
 以上のような、環境の変化を反映し「歯科教育モデル・コア・カリキュラム」(文部科学省)が2016年に6年ぶりに改定された。そこでは、高齢社会に対応する教育として、以下の4点が掲載された。
1)「患者中心のチーム医療」の実現:他の医療従事者との連携を身につける。
2)「地域医療への貢献」:地域医療・地域保健の在り方と現状、課題を理解し、地域医療に貢献するための能力を身につける。
3)「保健・医療・福祉・介護の制度」の理解:限られた医療資源の有効活用の視点を踏まえ、適切に保健・医療・福祉・介護を提供するために、関連する社会制度、地域医療及び社会環境を理解する。
4)臨床実習としての「チーム医療・地域医療」:チーム医療、地域医療、病診連携についての知識、技能及び態度を修得する。
 また、全ての歯科大学・歯学部(29校)では、「老年歯科」に関する講義を行っており、26校が老年歯科に関する実習、24校が訪問歯科診療に関する実習を実施し、老年歯科医学教育が実践されている。

●高齢者のニーズに合う多角的なカリキュラムを提供し、口腔の健康を守る医師を育成
 私が勤務する大阪歯科大学を例として、高齢者歯科の学生教育について説明をしたい。当大学では、1912年に「大阪歯科医学校」の開校以来、歯科医学教育に関わり、1949年から高齢者にニーズの高い義歯やブリッジを作る「歯科補綴学第一講座」を開設し、2000年に「高齢者歯科学講座」に転換し、2015年からは「口腔リハビリテーション実習」を開始している。その内容は以下である。
<口腔内装置の製作実習>
舌の障害により摂食・嚥下障害や構音障害を起こしている患者に用いる口腔内装置「口蓋床(PAPの原型)」の製作実習を行う。
<嚥下障害を診断するスクリーニング法の習得、嚥下内視鏡の取り扱いの習得>
摂食嚥下機能の状態について診察・検査・診断を行えるように実習を行う。検査のための嚥下内視鏡の使い方や治療方針策定のためのスキルを習得し、リハビリテーションを実習。
<口腔ケア・プラン作成>
高齢者の器質的口腔ケアの立案、指導、介助口腔ケアを習得。具体的には、ケア用具の説明や指導、義歯のケア方法指導などを習得する。
<間接訓練・直接訓練・食事介助>
「間接訓練」(食べ物を使わないで飲み込む力を鍛える訓練)や、「直接訓練」(食べ物を使った摂食嚥下の訓練)、安全に食事を摂るための「食事介助」の方法を習得する。
<車椅子実習・高齢者体験>
高齢者や要介護者に対して安全で最適な介助が行えるように、車椅子の取り扱いを学ぶ。また、低下した身体機能を体験できる特殊なスーツを着用して、高齢者の身体の状態を理解する。
<訪問歯科診療の実習>
急性期病院や、回復期病院のリハビリテーション科に訪問し、高齢者の口腔ケアや口腔リハビリテーションを学ぶ。
 このほか、本大学では、卒業後の歯科医師に対し、高齢者歯科の研修を行っている。高齢者施設を訪問し、口腔の診断を行った後、食事観察(ミールラウンド)を実施。食事の食べやすさのほか、姿勢や食べるスピードなども評価して指導を行い、安全な嚥下に導く。

●地域包括ケアシステムとの連携が今後の課題
 今後の課題は、地域包括ケアシステムの中での教育を充実させ、介護・介護予防の点で貢献することである。訪問診療に対応する「在宅療養支援歯科医院」は増加傾向にあるが、その数は、全歯科診療所の約9%にとどまっているのが現状だ。居宅で過ごす人の療養管理や経口維持支援(食事観察・指導)に関わり、地域ケア会議にも積極的に参加し、高齢者の健康維持や生活の質の向上に貢献する歯科医師を育成したい。

【開催概要】
日  時 : 2018年10月23日(火) 14:00~15:30
会  場 : コンファレンススクエア エムプラス 1F 「サクセス」(東京都千代田区丸の内2-5-2)
主  催 : 一般社団法人 日本私立歯科大学協会
内  容 :
■講演 1
 テーマ : 原因不明の歯痛への対応 -非歯原性歯痛の臨床-
 講師 : 日本大学松戸歯学部口腔健康科学講座(顎口腔機能治療学分野)教授
     付属病院 口・顔・頭の痛み外来 責任者 小見山 道 氏
■講演 2
 テーマ : 歯科医学教育の今とこれから -超高齢化時代の歯科医師を育てる
 講師 : 大阪歯科大学高齢者歯科学講座 教授 髙橋 一也 氏

          
           写真左: 小見山 道 教授 写真右: 髙橋 一也 教授

          

【ご参考】
一般社団法人 日本私立歯科大学協会について
 日本私立歯科大学協会は、昭和51年に社団法人として設立しました。歯科界に対する時代の要請に応えられる有用な歯科医師を養成していくため、全国17校の私立歯科大学・歯学部が全て集まりさまざまな活動を展開しています。また、加盟各校では、私立ならではの自主性と自由さを生かして、それぞれに特色を発揮しながら歯科医学教育を推進しています。
 日本の歯科医学教育は、明治以来、私立学校から始まったもので、現在も歯科医師の約75%が私立大学の出身者であるなど、加盟校は歯科界に大きな役割を果たしてきました。本協会ではこのような経緯を踏まえながら、今後とも歯科医学教育、研究および歯科医療について積極的に情報提供を進めていきます。
<加盟校>
日本全国の全ての私立歯科大学・歯学部(15大学17歯学部)が加盟しています。
○北海道医療大学歯学部        ○岩手医科大学歯学部     ○奥羽大学歯学部 
○明海大学歯学部           ○東京歯科大学        ○昭和大学歯学部     
○日本大学歯学部           ○日本大学松戸歯学部     ○日本歯科大学生命歯学部 
○日本歯科大学新潟生命歯学部     ○神奈川歯科大学       ○鶴見大学歯学部
○松本歯科大学            ○朝日大学歯学部       ○愛知学院大学歯学部 
○大阪歯科大学            ○福岡歯科大学

【所在地等】 〒102-0074 東京都千代田区九段南3-3-4 ニューライフビル内
        TEL.03-3265-9068 FAX.03-3265-9069
        E-mail : jimkyoku@shikadaikyo.or.jp
        URL   : http://www.shikadaikyo.or.jp
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『第8回 歯科プレスセミナー』を開催 /release/201710166848 Mon, 16 Oct 2017 15:01:43 +0900 日本私立歯科大学協会  一般社団法人 日本私立歯科大学協会(所在地:東京都千代田区、会長:三浦 廣行)は、2017年10月12日(木)に、コンファレンススクエア エムプラス 「サクセス」(東京都千代田区)において、『第8回... 一般社団法人 日本私立歯科大学協会
~急発展を遂げる、歯科医療が見据える国民健康の最前線について講演~
『第8回 歯科プレスセミナー』を開催
講演1:自分では分からない口腔がん
講演2:歯科治療で進む技術革新の流れ
〜先進医療から生まれたCAD/CAM冠〜
~それぞれのエキスパートが、研究分野の最前線を紹介~
 一般社団法人 日本私立歯科大学協会(所在地:東京都千代田区、会長:三浦 廣行)は、2017年10月12日(木)に、コンファレンススクエア エムプラス 「サクセス」(東京都千代田区)において、『第8回 歯科プレスセミナー』を開催いたしました。

 これは、歯科医療の見地から、皆様の健康的な生活を考え、サポートすることを目指し、当協会が2010年から開催しているプレスセミナーです。毎回、口腔衛生の最前線の情報をお伝えする講演を行っており、今回で8回目を迎えます。
 今回は、近年、患者数が増加している口腔がんの発見法や予防法を紹介する「自分では分からない口腔がん」と、歯科領域における急速なデジタル化の流れを紹介する「歯科治療で進む技術革新の流れ〜先進医療から生まれたCAD/CAM冠〜」をテーマに、講演を行いました。
 それぞれの専門家による最前線の研究結果を、ご参加いただいた28名の報道関係者の皆さまにお伝えいたしました。




「第8回 歯科プレスセミナー」講演風景


■講演 1
テーマ : 「自分では分からない口腔がん」
講師 : 奥羽大学歯学部 口腔外科学講座 教授 髙田 訓氏
近年増加中の「口腔がん」は10万人に1人がかかり、死亡率も高い“怖い病気”
 口腔内にはさまざまな病気があり、なかでも注意が必要な疾患が、口腔がんである。10万人に約1人の割合で発症するが、近年は患者数・死亡数ともに増加し、国立がんセンターの統計では、2016年の患者数は21,700人、死亡数は7,600人に達すると予測された。
 口腔・咽頭がんの死亡率(日本人、2013年)は46.10%で、これは、他の部位のがんの死亡率(胃がん38.7%、直腸がん19.50%、乳房がん19.30%、前立腺がん17.80%)と比べるとかなり高い。米国の口腔がん死亡率(19.1%)と比較しても、約2.5倍も高い数字である。

口腔がんの死亡率が高いのは、目に見えるがんなのに発見が遅れるため
 口腔がんの死亡率が高い理由として、口腔がんへの認知不足により受診が遅れること、検診が普及しておらず早期発見されないことが挙げられる。
 実際に、ある統計では、口腔がんの初期での受診率は4割にも満たず、6割以上が進行してからの受診であった。進行の程度による死亡率はStageⅠで0〜2%だが、StageⅡで約20%、StageⅢで約60%、StageⅣで約80%まで高まる。StageⅠの手術では舌の一部の切除で済むことが多いが、StageⅣでは顎の骨から頸(くび)のリンパ節まで広範囲を切除するケースもあり、会話や食事などに支障をきたしQOL(生活の質:Quality of life)が悪化する。
 死亡率が高いもう一つの理由は、進行の速さにある。StageⅠ・ⅡからStageⅢへは約2カ月、StageⅢからⅣへは約1カ月で進む。3カ月の放置で、手術後のQOLや死亡率に大きな開きが生じることになる。

歯科医師と口腔外科専門医の連携と、診断技術の向上により、早期発見・治療が実現
 口腔がんの早期発見のためには、異常を見つけたらすぐに口腔外科専門医の診察を受けることが必要だ。そのためには、歯医者さんをかかりつけ医にして、定期的に診てもらう習慣を持ってほしい。
 現在の診察では、口腔がんを見落とすことはほとんどない。歯科大学での学生への教育もしっかりと行われ、観察する部位(唇の裏や舌の下など20カ所以上)や触診する部位(顎の下のリンパ節など10カ所以上)を定式化した方法が確立されている。
 さらに、早期がんを発見する技術として、特殊な染色を使う「特殊染色」や、光を当てて見分ける「蛍光観察」などが普及し、診断の精度がさらに向上している。

口腔がん検診での発見率は0.13%と有効性は高く、検診の普及が急務である
 現在の口腔がん検診は、一部の自治体が、地元の歯科大学・歯学部や歯科医院などと連携して行っているのみである。検診による口腔がんの発見率は0.13%で、他の部位に比べて高い確率だ(胃がん0.11%、子宮がん0.08%、肺がん0.04%)。
 口腔がんの発生率(約0.001%)と比較すると、口腔がん検診の有効性は明らかであり、検診の普及が急務と考える。一方で、この発見率から、潜在的な口腔がん患者が多数いるとも推察される。

歯科大学・歯学部による口腔がんへの取り組み/予防方法
 口腔がんに対しての歯科大学・歯学部での取り組みも進み、学生に口腔がんおよび前がん病変、腫瘍類似疾患などについて教育している。
 また、歯科医師に対し、出身大学などを通じて相談・紹介する仕組みを構築している。歯科医師から専門の口腔外科への紹介率が上がるほど、病脳期間(気づいてから受診するまでの期間)が短縮化されるというデータもあることから、医師間の連携が早期発見・治療に貢献することになる。
 口腔がんは、比較的予防しやすいがんだ。誘発要因である、たばこ、歯並びの悪さ、歯科の補綴器具(詰め物・冠・入れ歯)などの自己管理と、歯科医院での定期健診により、リスクをさらに下げることができる。
 歯科大学での教育レベルや若い医師による診断技術も高まっており、口腔がんの早期治療が実現することで、国民の健康長寿に貢献することができる。


■講演 2
テーマ : 「歯科治療で進む技術革新の流れ〜先進医療から生まれたCAD/CAM冠〜」
講師 : 北海道医療大学歯学部 口腔機能修復・再建学系 デジタル歯科医学分野 教授
           疋田 一洋 氏
●歯科の新領域として注目される「デジタル歯科医学分野」/複雑な過程が必要な歯の修復で、デジタル・機械化を推進
 歯科の技術には大きなデジタル化の流れが起きており、私の専門は「デジタル歯科医学分野」という非常に新しい領域である。本講演では、その最新情報をご紹介したい。
 今回は、奥歯のクラウン(歯の大部分が失われたところに人工の歯冠をかぶせる技術)を例に、その製作技術の進化を説明する。従来のクラウンは、オーダーメードの手作りで、以下のように複雑で手間のかかるものである。

<従来のクラウンの製作工程>
①支台歯形成:クラウンの土台となるように歯を削り整える、②印象採得:口の中に印象材を押し付けて固め、支台歯周辺の型を取る、③作業模型製作:印象材にできた歯の陰型に石膏を流し込み、口の中の状態を再現した模型を製作、④WAX UP:手作業によりクラウンの形に作ったワックスを当てはめる、⑤埋没:ワックスを型枠の中の埋没材に埋め込む、⑥鋳造:高温で焼却し、溶かした金属をクラウンの型に流し込み完成、⑦調整・装着:噛み合わせなど調整・研磨をして口の中に装着。

●コンピューターと機械を使用し手作業過程を省いた「CAD/CAM冠」が2014年から保険適用
 こうした工程を機械化する試みが1970年代から始まり、その中心が、内山洋一先生(当時の北海道大学歯学部教授)であった。私は同先生に誘われて1987年から研究を始め、CAD/CAM(コンピューター支援による設計と加工)によるクラウン製作に成功した。その後、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)のプロジェクトを利用して、歯科用のCAD/CAMシステムのプロトタイプを製作。これを1999年に商品化したが、保険適用外のため普及が進まなかった。
 そこで、素材にハイブリッドレジンを選び研究を進め、先進医療の承認を経て、2014年にCAD/CAM冠が小臼歯に限定で保険適用となった。現在は大臼歯での適用をめざし、研究とエビデンスの蓄積をはかっている。 
 CAD/CAM冠では、①支台歯形成、②印象採得、③作業模型製作、⑦調整・装着の工程が従来と同じであるが、手作業となる④WAX UP ⑤埋没 ⑥鋳造が省かれる。その代わりに、④SCAN(レーザーで歯の形をデータ化) ⑤CAD(コンピューター上での歯の設計) ⑥CAM(データを使った切削機械による加工)が加わる。CAMでは、一本を約20分で自動的に削り、時間短縮が図られる。CAD/CAM冠の素材には、通常の硬質レジンに比べて約2倍の曲げ強さを持つハイブリッドレジンを使用する。

●「CAD/CAM冠」は保険適用により着実に普及/作業効率向上により歯科技工士の働き方改革にも貢献
 保険適用となったCAD/CAM冠は、2016年に推計100万本以上が製作され(従来の金属冠は350万本)、システム機器は年間約1,000台が販売されている。従来のクラウンの素材である金銀パラジウム合金は、金属価格の高騰、金属アレルギーの問題、審美性の点から見直しをする潮流があり、CAD/CAM冠の普及に追い風となっている。
 また、近年、歯科技工士の数が減少(今後10年で20%減少と予測)するなか、その労働環境や作業効率を向上させるCAD/CAM冠には、雇用創出や働き方改革の点でも期待が寄せられている。

●歯科大学・歯学部によるCAD/CAM教育が充実/デジタル化の進展により歯科技術に新たな時代が到来
 こういったデジタル化の進展は、クラウンに限らない。本年開催された学会では、3Dプリンターと組み合わせたCAD/CAMデンチャー(入れ歯)の開発などが紹介され、今後、新しい素材を使った試みが進むと思われる。 また、口の中を直接スキャンする「口腔内スキャナー」の普及により、「印象採得」と「模型製作」の工程もデジタル化が可能になった。非接触型スキャナーによる印象採得は短時間で終わるため、歯科の診療をより安全で快適なものにすると期待される。
 口腔内スキャナーによる計測とCADによるクラウン設計、CAMによるクラウンの加工が実用化された現在、機械による歯の自動切削が行えるようになれば、すべてのステップの「フルデジタル化」が現実となる。それに向けた研究も進んでおり、コンピューターと機械によって、機能の優れた歯科技工物が一気通貫で正確、安全、効率的に作れるようになる未来がもうすぐ訪れようとしている。

【開催概要】
日  時 : 2017年10月12日(木) 14:00~15:30
会  場 : コンファレンススクエア エムプラス 1F 「サクセス」(東京都千代田区丸の内2-5-2)
主  催 : 一般社団法人 日本私立歯科大学協会
内  容 :
 ■講演 1
   テーマ : 自分では分からない口腔がん
   講師 : 奥羽大学歯学部 口腔外科学講座 教授 髙田 訓 氏
 ■講演 2
   テーマ : 歯科治療で進む技術革新の流れ〜先進医療から生まれたCAD/CAM冠〜
   講師 : 北海道医療大学歯学部 口腔機能修復・再建学系 デジタル歯科医学分野教授
                                                                                            疋田 一洋 氏



【ご参考】
一般社団法人 日本私立歯科大学協会について
 日本私立歯科大学協会は、昭和51年に社団法人として設立しました。歯科界に対する時代の要請に応えられる有用な歯科医師を養成していくため、全国17校の私立歯科大学・歯学部が全て集まり様々な活動を展開しています。また、加盟各校では、私立ならではの自主性と自由さを生かしてそれぞれに特色を発揮しながら歯科医学教育を推進しています。
 日本の歯科医学教育は、明治以来、私立学校から始まったもので、現在も歯科医師の約75%が私立大学の出身者であるなど、加盟校は歯科界に大きな役割を果たしてきました。本協会ではこのような経緯を踏まえながら、今後とも歯科医学教育、研究および歯科医療について積極的に情報提供を進めていきます。
<加盟校>
日本全国の全ての私立歯科大学・歯学部(15大学17歯学部)が加盟しています。
○北海道医療大学歯学部     ○岩手医科大学歯学部     ○奥羽大学歯学部 
○明海大学歯学部          ○東京歯科大学        ○昭和大学歯学部     
○日本大学歯学部          ○日本大学松戸歯学部     ○日本歯科大学生命歯学部 
○日本歯科大学新潟生命歯学部  ○神奈川歯科大学       ○鶴見大学歯学部
○松本歯科大学         ○朝日大学歯学部       ○愛知学院大学歯学部 
○大阪歯科大学         ○福岡歯科大学

【所在地等】〒102-0074 東京都千代田区九段南3-3-4 ニューライフビル内
      TEL.03-3265-9068 FAX.03-3265-9069
      E-mail:jimkyoku@shikadaikyo.or.jp
      URL   :http://www.shikadaikyo.or.jp
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『第7回 歯科プレスセミナー』を開催 /release/201703109754 Fri, 10 Mar 2017 16:59:39 +0900 日本私立歯科大学協会  一般社団法人 日本私立歯科大学協会(所在地:東京都千代田区、会長:井出 吉信)は、2017年3月9日(木)に、コンファレンススクエア エムプラス 「サクセス」(東京都千代田区)において、『第7回 歯... 一般社団法人 日本私立歯科大学協会
~歯科医学・歯科医療から国民生活を考える~
『第7回 歯科プレスセミナー』を開催

講演1:お口の中のあんな病気、こんな病気
―虫歯と歯周病以外にも驚くほどたくさんの病気が!
講演2:口腔病理学から観たASEAN経済共同体後の
アジアにおける歯科医療への日本の戦略的役割

~それぞれのエキスパートが、研究分野最前線を紹介~
 一般社団法人 日本私立歯科大学協会(所在地:東京都千代田区、会長:井出 吉信)は、2017年3月9日(木)に、コンファレンススクエア エムプラス 「サクセス」(東京都千代田区)において、『第7回 歯科プレスセミナー』を開催いたしました。

 これは、「歯科」から人々の健康な生活を考え、サポートすることの重要性を広くご認識していただくことを目的に、当協会が2010年から開催しているプレスセミナーで、今年で7回目を迎えます。
 今回は、近年、口腔がんの増加などを背景に口腔の衛生環境が注目されていることから、「お口の中のあんな病気、こんな病気―虫歯と歯周病以外にも驚くほどたくさんの病気が!」と、「口腔病理学から観たASEAN経済共同体後のアジアにおける歯科医療への日本の戦略的役割」をテーマに、講演を開催いたしました。
 それぞれの専門家による最前線の研究結果を、ご参加いただいた29名の報道関係者の皆さまにお伝えいたしました。


■講演 1
テーマ:「お口の中のあんな病気、こんな病気―虫歯と歯周病以外にも驚くほどたくさんの病気が!」  講師:松本歯科大学 歯学部長/同学歯学部口腔病理学講座 教授 長谷川 博雅氏

「虫歯」と「歯周病」だけではない“お口の病気”
 口腔病理を診断する専門医である口腔病理医の業務は、細胞診断、組織の生検や術中迅速判断、病理解剖である。現在、一般社団法人日本病理学会により口腔病理専門医が認定されている。
 口の病気には、二大疾患である「虫歯」と「歯周病」以外にも「感染症」、「嚢胞(のうほう)」、「アレルギー」、「先天奇形・先天性疾患」、「腫瘍」、「外傷」など多くの種類があるが、今回は特に舌、歯肉あるいは頬などの粘膜に起こる病気を中心に紹介する。
 口の粘膜に起こる病気には、唾液がたまって袋状になる「粘液嚢胞」のほか、麻疹ウイルスやヘルペスウイルスなどによる「ウイルス感染症」、カンジダ症に代表される「口腔カンジダ症」といった感染症がある。

注意が必要な口腔がんの予備群
 口に発生する病変で怖いのは「口腔(こうくう)がん」で、そのほとんどが「扁平上皮癌(へんぺいじょうひがん)」である。
 その病気自体はがんではないが、がんになる可能性がある「潜在性悪性疾患」に、「口腔扁平苔癬」や「白斑症」、「紅斑症」、「慢性カンジダ症」、「ニコチン性口内炎」などがある。これらは粘膜の変色が特徴なので、兆候があれば検査をしていただきたい。

歯科の定期健診でがんを早期発見・早期治療
 2015年のデータでは、がんで死亡する方の約2%が口と喉(口腔と咽頭)のがんで、この約50年間に死亡者数が10倍以上に増えた。背景には高齢化があり50歳くらいから口腔がんのリスクが急激に高まり、男性では70代前半が発症のピークである。また、高齢者には複数カ所に腫瘍ができる広域癌化がよくみられる。
 口と喉のがんは粘膜に発生するため、目視検査や触診で兆候を見つけることができ、細胞診のための採取も容易で、早期であれば簡単な処置で済む。歯科受診が、早期に発見につながるので、定期的な健診をお勧めする。


■講演 2
テーマ:口腔病理学から観たASEAN経済共同体後のアジアにおける歯科医療への日本の戦略的役割 講師:愛知学院大学歯学部 口腔病理学講座 教授/
   日本病理学会口腔病理専門医研修指導医 前田 初彦氏

アジアにおける歯学教育の問題点と日本の戦略的役割
 2015年にASEAN経済共同体が発足した。ASEANの発展途上国では、歯科医師および関連医療従事者の数が不足している上、「ビンロウ」(アレカ椰子)の種子を噛む文化があるため、口腔がんの発生率が高い。
 愛知学院大学歯学部では、日本口唇口蓋裂協会と共同して、口腔病理診断の教育・研修の援助や、歯科診療ボランティア活動をアジア各国で行ってきた。それに続き、2010年から2012年に、日本学術振興会(JSPS:Japan Society for the Promotion of Science)の助成を受けて「新世紀に向けたアジアにおける口腔病理学の標準化と専門医化動向に関する戦略的調査」を行った。その結果、マレーシアとスリランカは、口腔病理学の教育と口腔病理診断が行われているが、他の国では、口腔病理専門医の資格制度がなく、口腔病理学教育も行われていないケースもあることがわかった。
 教員の質と数の不足に対しては、日本の私立歯科大学による留学生受け入れのほか、教員などの人的資源を現地に供給し、主導権を握っていくことが望ましい。今後は、英語と母国語のできる人材を育成していくことが必要となる。
 口腔病理学講座の不足に対しては、すでに愛知学院大学歯学部口腔病理学講座、附属病院口腔診断部が、アジア諸国から歯科医師を招聘して教育し、母国における教育のリーダーを養成する活動を実施している。
 このほか、ICT(情報通信技術)を活用した歯科医療の教育コンテンツを提供することも有効だ。日本臨床口腔病理学会のMedical e-learningの英語版、各国語版の提供や、スカイプを利用した授業も可能である。併せて「歯科衛生士」の育成支援も行うべきである。

郡部のBOP層を支援するICTソリューション/アジアでのソリューションをリバースイノベーションとして日本に活用
 ASEAN諸国の都市部や高額所得者層では、歯科医療の需要が高まっており、日本の歯科医師免許が使用できるカンボジアでは、日本人による歯科医院が開設されている。インドネシアのバリでも、現地歯科医師との共同開設で歯科医院が開設されている。その一方、郡部に住むBOP(Base of the economic Pyramid)層は、ほとんど治療を受けられないのが現実である。
 口腔がんの予防・治療を進めるにはICTの活用が有効だ。都市部では高度な診療遠隔医療システム、郡部では「特定非営利法人日本口腔粘膜機構(JOMNET)」などが提供する遠隔検診・スクリーニング方法の応用が可能である。患部の画像を携帯電話で日本へ送信し、日本の専門家が診断し、アドバイスを添えて返信することで、BOP層の口腔がんスクリーニングを行うことができる。
 このような遠隔診断システムの導入は、それをモデルとした日本の無医村へのリバースイノベーションとして活用し、日本の医療格差を解消するヒントともなる。
 ASEAN経済共同体後のアジアにおける歯科医療への日本の戦略的役割としては、高度な歯科医療ではなく、BOP層の医療格差を解消できるようなシステムを構築することが重要であり、現実的であると考える。
 このように、開発途上国に対しては、箱モノの支援より、私立歯科大学によるFace‐to-faceの教育援助活動が有効である。また、活動継続のためには、国からの支援も必要である。



【開催概要】
日  時:2017年3月9日(木) 14:00~15:30
会  場:コンファレンススクエア エムプラス 1F 「サクセス」(東京都千代田区丸の内2-5-2)
主 催:一般社団法人 日本私立歯科大学協会
登壇者: 講演1:松本歯科大学 歯学部長/同学口腔病理学講座 教授    長谷川 博雅 氏
     講演2:愛知学院大学 歯学部口腔病理学講座 教授/
        日本病理学会口腔病理専門医研修指導医 前田 初彦 氏
     一般社団法人 日本私立歯科大学協会 会長 井出 吉信
内  容:
■講演 1
 テーマ:「お口の中のあんな病気、こんな病気―虫歯と歯周病以外にも驚くほどたくさんの病気が!」
 講師:松本歯科大学 歯学部長/同学歯学部口腔病理学講座 教授 長谷川 博雅氏

■講演 2
 テーマ:口腔病理学から観たASEAN経済共同体後のアジアにおける歯科医療への日本の戦略的役割
 講師:愛知学院大学歯学部 口腔病理学講座 教授/
    日本病理学会口腔病理専門医研修指導医 前田 初彦氏


【ご参考】
一般社団法人 日本私立歯科大学協会について
 日本私立歯科大学協会は、昭和51年に社団法人として設立しました。歯科界に対する時代の要請に応えられる有用な歯科医師を養成していくため、全国17校の私立歯科大学・歯学部が全て集まり様々な活動を展開しています。また、加盟各校では、私立ならではの自主性と自由さを生かしてそれぞれに特色を発揮しながら歯科医学教育を推進しています。
 日本の歯科医学教育は、明治以来、私立学校から始まったもので、現在も歯科医師の約75%が私立大学の出身者であるなど、加盟校は歯科界に大きな役割を果たしてきました。本協会ではこのような経緯を踏まえながら、今後とも歯科医学教育、研究および歯科医療について積極的に情報提供を進めていきます。

<加盟校>
日本全国の全ての私立歯科大学・歯学部(15大学17歯学部)が加盟しています。
○北海道医療大学歯学部     ○岩手医科大学歯学部     ○奥羽大学歯学部 
○明海大学歯学部        ○東京歯科大学        ○昭和大学歯学部     
○日本大学歯学部           
○日本大学松戸歯学部      ○日本歯科大学生命歯学部 
○日本歯科大学新潟生命歯学部  ○神奈川歯科大学       ○鶴見大学歯学部
○松本歯科大学         ○朝日大学歯学部       ○愛知学院大学歯学部 
○大阪歯科大学         ○福岡歯科大学

【所在地等】 〒102-0074 東京都千代田区九段南3-3-4 ニューライフビル内
       TEL.03-3265-9068 FAX.03-3265-9069
       E-mail jimkyoku@shikadaikyo.or.jp
       URL: http://www.shikadaikyo.or.jp
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